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木蓮屋敷 5
もどってきたのは別の人だった。
中年の、ちょうど母くらいの年齢の女性、きっと使用人のまとめ役のような立場なのだろう。
その人もまたわたしを頭の先から足の先まで無遠慮にながめた。
「なんだいやけに幼いし随分細いね。こんな子を雇ってどうしろっていうのさ」
悪態をつきながら、わたしにあがるように促し、名を問うた。
「大野いとと申します」
わたしはそう答えるのが精一杯だった。
「いと。とりあえずその格好はどうにもならないから着替えなさい。もっとましな着物を持ってくるからね。この屋敷では人手は足りてるんだよ、なんであんたみたいなのを間頃雇ったんだか。まあいい。使えと言われたからにはあんたを一人前の女中に育ててやるから。まずは下女の見習いをするんだよ。言われた通りしていれば悪いことにはならないからね」
この人はいい人だ。たきと名乗ったこの女中頭についてわたしはそう思った。
思おうとしたというほうが正しいのかもしれない。