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三十年後 6
手紙を読み終え、わたしはまた涙がとまらなくなってしまう。
橋本さんを三階の窓から一人で見送ったあの日と同じように、後から後から涙がこぼれてくる。
わたしのような人生でもわたしのことを気にかけてくれる人が一人でもいてくれるなんてことがあるのだと知って、なんとも言えない心持ちになる。
心が静かに満たされてゆく。
こんな奇跡がわたしにも起きることがあるのだと。
橋本さんからの提案を噛み締め、手紙の内容を何度も読み直す。
と、封筒から一枚の絵葉書がこぼれ落ちる。
拾い上げると、一軒の家が描かれている。
水絵の具で描かれたのだろう、以前、橋本さんが絵を描くのが好きだと言っていたことを思い出す。
おそらく橋本さんの手による優しい筆使いの美しい絵。
家の周りは白い花が取り囲んでいる。
まるで外灯みたいに、ぼうっと灯るかのように花をつけた木、白木蓮だろうか。
そしてその絵葉書の隅に、鉛筆書きの小さな文字が書きこまれている。
「木蓮荘にて」と。




