表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木蓮荘  作者: 立夏よう
4/42

木蓮屋敷 3

母と話すのは工場長ではなく女性のほうだった。

工場長は最初に彼女を紹介するような素振りをした後は控える感じにみえた。

女性の声はやけに小声でわたしにまではよく聞こえなかったが、

部屋の隅にいたわたしにも母が驚いている様子なのは感じられた。

彼女が何か言うたび、母は動揺し、首を振り、拒否するかのような素振りを見せた。

しかし、その女性が手にしていた風呂敷から何かを母に手渡したことですべてが変わった。

それがわたしの人生の分岐点の一つだったと思う。

わたしの人生なんて、わたしの都合で決められるものではなく彼女たちの手のひらの上にあったのだ。

母の張り詰めた表情は一瞬にして和らぎ、またあの卑屈な表情が戻り、

見たこともないような張り付いた笑みすら浮かべているように見えた。


彼女たちの間で、今日のこの日からわたしはこの家を出ていき、

野崎家に奉公に出るという契約が交わされたのだった。

わたしはそれを母から聞かされた。

驚く間もなく、拒否する自由もなく、わたしはただ与えられた運命に従うように、

わずかな荷を作り、とぼとぼと女性に連れられて家を出た。

母は少し悲しそうな顔を見せてはくれた。

妹と弟はきっと何もわかっていなかったのだろう、その時悲しかったのはきっとわたしだけだった。


野崎家のことはよくは知らない。

お金持ちの名家だということをなんとなく知っているくらいだった。

野崎家、九鬼家、峰家、このあたりがこの地方有数の資産家として知られていた。

その野崎家になぜわたしが行くことになったのか、

その時のわたしはその理由を考える余裕もなく、ただただこれから訪れる人生の変化になんとかついていかなければ、どんなことをしても、野崎家でやっていけなければわたしには帰る家などないということだけはわかっていて、そのことしか考えられなかった。


わたしは売られたのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ