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木蓮荘  作者: 立夏よう


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木蓮屋敷 15

鎌倉で山口先生は医者の手配をして有名なドイツ帰りの先生が綾さまを診察した。

その先生いわく二度の診察のうえでなんの問題もないと、日光をあびて変異の症状はみられないという診断を下し、かなり自由に散策できるようになった。

それでも日差しの強い昼間は避けて、庭で草花を摘んだり近くの景色がいい場所まで歩いていって写生をしたり。


綾さまがあまりに草花を愛でるので先生は注意をした。

「手が荒れますよ。白魚のように綺麗な手をなさっているのに」

「いいの。綺麗な手なんていらないの」

そう言って悪びれる様子もなく、夢中で花を摘んだ。夏の草花を。


そして、絵を描いた。先生がとりよせた舶来の水絵の具を使って写生するのだ。

綾さまはとてもお上手だった。

わたしはまるで絵心がなくて、たまに綾さまにからかわれた。

でもそんな時間も幸せだった。

二人で夏の鎌倉を水絵で描いたのだけど、綾さまが描きかけにした一枚で途中で反故にしたものをこっそり拾ってわたしの荷物にしまってある。

大事な宝物のように。


この日々が永遠に続けばよいのにとわたしが強く思っていたのは、

いずれ終わることがわかっていたからだ。

不安もないまま幸せな環境にいることができる人たちならばきっとこんな風には感じないのだろう。でもわたしは違う。

今までの暮らしと全く違う夏を鎌倉の別荘で過ごして、これがいつまでも続かないことはわかっていたからこそ、この夏を鮮やかな記憶として残したかった。


わたしの人生で、こんな幸せな時期はそんなに続かないだろうし、

二度と来ないかもしれないのだから。


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