木蓮屋敷 10
綾さまの部屋でわたしたちがしていたことは恐ろしいことだった。
だから綾さまはわたしに固く誓わせた。
この部屋でわたしたちがしていることを誰にも話してはならないと。
女中頭のたきさんはわたしが綾さまの部屋へ出入りすることや一緒に勉学の時間をとっていることをよく思っていないことはわかっていた。
でもこの屋敷のものは皆、綾さまの言いなりだった。
わたしが最低限の仕事を終わらせて、綾さまの部屋に行くことに誰も口出しはできなかったのだ。
綾さまはわたしたちがしていることは遊びであり修行なのだと言った。
これはいったい何のための誰のための修行なのかわたしにはわからなかった。
綾さまとわたしの関係は最初から最後まで、雇い主の娘と使用人だったのだから、
わたしが雇い主の娘のすることに疑問を持つことや口を挟むことはできないことだった。
ただただ、言われた通り、綾さまの望む通りわたしはその「修行」を修め、
綾さまの期待に沿うように努力し、おそらく上達していったのだろう。
わたしにはよくわからなかったが。
わたしたちは随分親しくなった。
一緒にいる時間が長くなるにつれ、そして同じ雑誌を読み、同じ古典文学を読むにつれ、
綾さまが持ち出す話の元がわかるようになり同じところで笑えるようになり、
同じところで涙を流すようになっていった。
山口先生は、綾さまのお父上に頼んでいるのか東京から最新の雑誌をいろいろと手を尽くして揃えてくれた。
こんな田舎でも新しい雑誌や本が次々届き、わたしの文学環境は分不相応に充実したものになっていった。
たきさんには何度か注意されたことがある。
そんな口調、言葉遣いはお前の立場に合わないよ、と。
彼女はわたしが綾さまと近づきすぎるのを良く思ってなかった。
たきさんの危惧はいつも正しい。




