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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
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1.付き纏う者【3】

「とりあえず、料理はそれだけで。飲み物は儂にはハウスワインを、連れにはミネラルウォーターをな」


 タクトは、マハトの好みなど一切訊ねもせずに、給仕に次々と指示を出した。

 とはいえ、注文の内容に不満は無い。

 なぜならこの件に関しては、既に何度か衝突を繰り返し、互いの妥協点を見つけていたからだ。


 最初の晩、タクトは料理に合わせてビターエールを注文したが、マハトはそれに手を付けず、ミネラルウォーターを頼み直した。

 マハトが元々甘党よりの嗜好をしていたこともあるが、そもそも長年暮らした修道院では、位階の低い(もの)にはぶどうの搾りかすに水を加えて作られた果実水しか提供されなかったのも理由だった。


 修道院は、所有しているぶどう畑から収穫されたぶどうを使って、ワインを作っていた。

 それらは貴重な収入源であったため、位階の高い(もの)しか口にしてはいけない決まりになっていた。

 更に、一神教の戒律には"アルコールは量を過ごすと毒になるため、多量に摂取することを禁ずる" というものがあり、配られる量は厳密に管理されていた。

 つまりその戒律と嗜好の両方から、マハトはアルコールを忌避していたのだ。

 タクトは「アルコールは食事の友だ」だの「料理に合わせると味が引き立つ」と熱弁したが、マハトが頑として受け入れなかったため、次第にアルコールを注文しなくなった。


「あまり凝ってはおらぬが、シンプルで美味い。やはりワインに合わせているようじゃな」


 運ばれてきた料理を少しだけ味見したところで、タクトは納得げに頷き、盛大に食事を始めた。

 タクトは、出てきた料理が気に入らないと、ピタリと手を止めて全く食べなくなる。

 逆に気に入った場合は、マハトの倍以上の量を平らげる。

 その気分屋ぶりには呆れもするが、最近ではすっかり馴れてきてもいた。


 今日は、白身の魚をハーブで蒸した料理をメインに、他に副菜(ふくさい)を数点とハウスワインの白を頼んでいた。

 ゴブレットを片手に、料理を口に運ぶタクトは、その美しい顔に似合わない大口を開け、食べ物を頬張っている。

 こういう、少々子供じみた行動や表情、寝ている時などは可愛い顔をするがなぁ…などと、正面のタクトを眺めて、マハトはつまらない考えに陥っていた。


「ふむ、貧相な宿だが、大衆酒場向きの腕の良いコックがおるようじゃ」


 そう言いながら大皿の料理をどんどん取っていくタクトを見て、マハトはハッとした。

 このままぼんやりしていたら、間違いなく自分の分がなくなるからだ。

 慌てていつものように右手を(ひたい)に当てた(あと)、フォークを手に取る。

 口に含むと、確かにタクトの言う通り、魚はとても美味いし、副菜(ふくさい)もまた美味い。

 マハトが料理の出来に感心しながら食事をしていると、タクトはウェイターを呼びつけて追加のオーダーを始める。

 今夜は一体、どれほど食べるつもりなのだろう? とタクトの様子を眺めながら、頭の隅っこでそんなことを考えた。

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