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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
89/122

20.旅立ち【3】

「ところで、クロスさん。アルバーラはあの四人以外にも、ヒトや幻獣族(ファンタズマ)も食べていたんだろう? それはどうなったんだ?」

「いや、俺もこの四人が元の姿に戻って驚いてるぐらいだし…」

「そうか。蘇らせたのがジェラートとタクトなら、クロスさんには判らないのか…」

「だけど、せっかくこうして蘇生させてもらえたんなら、魔導士(セイドラー)の誓いの通りに、人間(リオン)に貢献するようになってもらいたいな」

「あ、それなら良いな! 俺には関係ねぇとこで、勤勉に働いてもらうのはアリよりのアリじゃねっ?」


 クロスの呟きに、ジェラートが乗ってきた。


「まずはコイツらを小微羽(スキルニル)にして、メッシュを魔導組合(セイドラーズギルド)のトップに立たせて、伝説はただの伝説ですって言わすんだ。そんでもって、こっちの解読マニアには核化(フィルギナイズ)とか宴の食卓(フリムニル)とかの術式を破棄させて…」

「術式の破棄は、儂も賛成したいが。しかし小微羽(スキルニル)なぞにしたら、爆上がりした能力値(ステータス)を、どう説明させるつもりじゃ? このカボチャ頭めがっ」

「師匠が人間(フォルク)離れした能力値(ステータス)だったんだから、弟子が少々すごくたっていいじゃん。頑張ればこれくらい上がるっつっとけば」

「では、残りの二人の使い道は?」


 くっつきあって目を回しているルミギリスとカービンを見てから、ジェラートはクロスの顔を見る。


「なぁクロス、なんか使い途あるかな?」

「えっ…そりゃ、一応アンリーのライヴァルとして、ルミギリスだって同じぐらい能力値(ステータス)が上がってないと…ちょっと、…すごく? バランス悪い…とか?」


 焦り顔で言い繕うクロスを、微妙に冷めた目線でタクトは眺めてきたが。


「まあよい。成人(マンナズ)を済ませた(もの)の行動に、儂がこれ以上口を出す謂れもないわな。そやつらのことも含めて、ここから先は(おのれ)が思う通りにせえ。儂もこれにて、ようやく子守から開放されたのじゃしな」

「俺もよーやく小姑から開放だー!」

(だれ)が小姑かっ! さんざん手間と心配かけさせた、この口が言うのか!」

「イテェっつーの! もう実体になってんだから、気軽にヒトの頬を引っ張んなー!」

「ちょっとジェム、小姑は似合い過ぎでしょ」


 ジェラートの頬を引っ張っていたタクトが、怖い顔をしてクロスに振り返る。


「そのヘタレた口も、命の恩人に対してそういうことを言うか!」

「いだだだだだっ!」

「ジェラート、開放ってどういうことだ?」

「俺が免許皆伝されたから、タクトはもう俺の守護者(ケルヴィンガー)をしなくていいのさ」

「そうだ、聞きそびれてたんだが、その "けるゔぃむ" とかいうのは、なんなんだ?」

神耶族(イルン)人間(フォルク)と違って、子育ては最も能力のある(もの)に託すのじゃ。守護者(ケルヴィンガー)とはすなわちその託された(もの)の名称であり、子の師匠となる(もの)じゃな」

「なるほど。でジェラートは、これからどうするんだ?」


 ようやくタクトが手を離したので、クロスが頬を押さえて逃げていく。


「どうもせん。神耶族(イルン)は基本、単独で気ままに生きる(もの)じゃ。(とも)をするのは契眷属(フェストゥーカ)のみ。ジェラートはあのヘタレを契金翼(エヴンハール)にしたので、貴様は儂が可愛がってやろうぞ」

「可愛がる? (だれ)が? なぜ?」

「まったく鈍いサウルスじゃの。貴様を、儂の契金翼(エヴンハール)にしてやろうと言っておるのじゃ」

「冗談じゃない! おまえのようなトラブルメーカーと同行するのは懲り懲りだし、契約なんてお断りだ! クロスさん、縁があればまた逢いましょう、ジェラートも元気でな。じゃあ俺はこれで!」


 言うなり、マハトはダッと駈け出した。


「おいマハ! 砂漠で気を失っている時に、既に仮契約は済ませてある! どこへ行こうと、儂には居場所が解るのじゃぞ!」

「あーあ、大変だ。あんな半裸のまま、()っちゃって…」


 呟きながらジェラートが、走り去るマハトの背中を目で追っていると、一緒にそれを見ているタクトが、ご馳走を前にした猫のような顔で顎をしゃくる。


「ふふ、走っていくヤツの尻臀(しりたぶ)、そそると思わんか?」

「あ〜、確かにマハはタクトの好みだナ。でも逃げちゃったぜ?」

「この儂が見初めたのだぞ。断る選択肢なぞ、与えはせんわ。それではジェラート、達者でやれ。さすればまたどこかで、巡り合うこともあるだろう」

「うん、タクトも上手くやれよな」


 マハトのあとを追っていくタクトに、ジェラートは手を振った。


「ねェ、ジェム。俺が契金翼(エヴンハール)になった…ってのは、ホントなんだろうケド…」

「なんだよ? なんかモンダイ?」

「いや、その、魂融術(シームル)ってのは、一体なんだったの? 夢みたいだけど、夢じゃないみたいだし…」

「あ〜、アレかぁ」


 ジェラートがちょっと真面目な顔で考えるような素振りを見せたので、クロスは黙って答えを待った。


「夢のよーな、夢じゃないよーな? どっちでもいーじゃん」

「なんなの、それ…」

「だぁってクロスは、俺のモンになるの嬉しいって思ってたじゃん。俺もオマエと冒険三昧するの、スッゲェ嬉しいンだぜっ!」


 そう言って、ジェラートはクロスの頬にキスをする。

 その瞬間、クロスは自分の顔が音を立てて赤く染まるのを感じ、自分はもうすっかりジェラートの虜になってしまったのだと理解したのだった。



*追われる少年:おわり*

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