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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
86/122

19.万年生きるカメの秘密【3】

「本物の恩恵の瞳(アストーガ)って、宝石より綺麗なんだね」

「さすが俺の相棒! 恩恵の瞳(アストーガ)のコトもちゃんと知ってんだな!」

「瞳だけじゃなくて、キミの存在そのものが至高の宝石みたいだ…。ジェムって呼んでもいい?」

「好きに呼べよ。それより、俺と一緒に、波瀾万丈な人生を楽しむか?」

「波瀾万丈はあんまり好きじゃないけど、でもキミと一緒ならそれもいいかなぁ…」

「なら、キマリだ」


 迫ってきた顔が、そのままクロスにキスをする。

 それから唇が耳に寄せられて、聞いたことのない名を密やかに囁かれた。


「今の、なに?」

(だれ)にも言うなよ?」

「いいよ。ジェムと秘密の共有が出来るのは、楽しそうだ」


 クスクス笑いながら、ジェラートはクロスにキスの続きをする。

 クロスは腕を伸ばそうとしたが、身体が動かなかった。


「あ〜、ダメダメ。現実のクロスは今、瀕死の重傷なんだから。いいから、俺に任せておけって」


 身体が動かないと思ったけれど、でも本当はそこに身体なんて無いような気もする。

 自分にキスをしているジェラートも、そこには存在していないような気がしている。

 しかし同時に、まるで裸で抱き合っているような気もしている。

 時間も空間も無く、自分は物理的(マテリアル)な存在から精神的(スピリチュアル)な存在へと昇華されて、今までの人生でずっと夢に見ていた憧れに触れたような気がした。


「なんでも知ってるクロスは、契金翼(エヴンハール)のコトも知ってんのか?」


 囁かれるジェラートの声が、耳ではなく心に気持ちが良い。

 神耶族(イルン)を隷属させることは、何があっても決してあってはならないことだと思っていた反面、自分はずっと契金翼(エヴンハール)に焦がれていた。

 孤高の賢者に憧れたのは、それならば人間(リオン)にも手の届く可能性がある夢だったからだ。

 本当は、神耶族(イルン)の目には塵芥にも等しい存在である人間(フォルク)の中から、自分の存在が見出され、選ばれる栄誉に預かることを、心の奥でずっと夢見ていた。

 その叶わぬはずの夢が、自分の身の上に舞い降りようとしている。

 魂融術(シームル)とは、まるで陶酔だとクロスは思った。


「いい夢だな…これ…」

「俺のモンになるの、そんなに嬉しい?」

「なんでわかるの?」

「なんでも知ってるクロスでも、知らないコトがあるんだな」


 へへっと笑った顔は、小さかった時のちょっと生意気な顔を彷彿させ、本当にジェラートがジェラート本人なのだと、確信というよりは安堵のような気持ちになる。


「ジェム…キスしよ」


 せがむクロスに、ジェラートは唇を重ね合わせる。

 唇を触れ合わせた瞬間に、なんとも表現し難い至福感に包まれた。

 今まで、人生の色々な局面であった理不尽や不満が、その手ですべて拭われていくような。

 快感にも似ているが、もっと身の内から満ち足りていくような感覚だ。


「なに……これ……」

魂融術(シームル)だっつったろ……」


 まるで快感の頂点に達したような、得も言われぬ幸福感に包まれて、クロスの意識は真っ白になった。

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