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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
84/122

19.万年生きるカメの秘密【1】

「どう、なったんだ…?」


 ドラゴンの全てを吹き飛ばし、一瞬でそこに何も無くなるような爆発に、呆然としているマハトの前を、何かが駆け抜けて行った。


「ヘタレっ! しっかりせぇ!」


 今までずっと頭の中に響いていたのと同じ声が、初めて耳に響いた。

 見ると力強い足運びで走る青年の姿があり、力尽きて倒れ込んでいるクロスに呼びかけている。


「おい…」

「マハ! これを飲んでおけ!」


 透けることなくはっきりとした存在感のあるタクトは、クロスの合切袋の中から何かを取り出して、ポイッとマハトに投げて寄越した。


「これは…なんだ?」

「粉末魔法薬(ポーション)と書いてある。ヘタレの(ほう)が重傷じゃからおヌシ(・・・)の傷は後回しだ、それで応急処置をしておけい! 必ずあのご先祖の、霊験あらたかな水と一緒に飲むのだぞ!」


 魔法薬(ポーション)のことはマハトも知っているし、致命傷でない負傷になら、それなりの効果があることも知っている。

 だがマハトの知っている魔法薬(ポーション)は、常に液体だった。

 だからアクティブな者が合切袋に入れて持っていると、すぐにガラス瓶が割れて、使い物にならなくなる。


「粉なら、瓶が割れなくて、便利だな…」


 感心したように呟いて、マハトは薬包を開き、その粉を口の中に入れたのだが。


「う、うう、ぐっはぁっ!」


 あの戦いの最中もあまり声をあげなかったマハトが、一体どんな攻撃を受けたのかとビックリして振り返ったタクトは、大急ぎで水筒の水を飲んでいるマハトの様子を見て、攻撃ではないらしいと理解した。


「どうした?」

「なんなんだこれは! 酷い味だ! これ、本当に、人が飲んで大丈夫なものなのか!」

「ほう、声に張りが戻ったな。顔色も、格段に良くなったぞよ」

「え?」


 言われてみれば、立っているのが辛いほどの痛みが、拭われたように無くなっている。


「酷い味だが凄い薬だな。軟膏と同じ、隠者の秘薬だったんだろうか?」

「隠者の効果かご先祖の効果かわからぬが、大した効き目だな。その様子なら、儂が不得手な回復(ヒール)を掛けてやる必要もなさそうじゃの」

「なんだ、おまえも回復(ヒール)が苦手なのか?」

「も、とは、なんじゃ?」

「クロスさんも、そう言っていたから」

「ふん。白光輝石(フィルトスヴァリン)では、当然じゃろうな。おヌシ(・・・)とて、斧や槍より剣が得意とかあるであろう?」

「そういうことか、なるほどな。とにかくおかげで動けるようになった。俺に出来ることがあれば言ってくれ」

「ならば、適当な大きな布地を探してきてくれぬか?」

「わかった」


 マハトは言われるまま、屋敷の中を探して回った。

 アルバーラがいたと思われる場所には、なにもない。

 タクトがなんらかの(じゅつ)を使って、変容してしまったアルバーラの体を吹き飛ばしたことはなんとなく想像がつくが、その残骸が全く残っていないのが、マハトには理解できなかった。


「全く、この世には、俺の知らんことがまだまだ多いのだな」


 奇妙な感心をしつつ奥へと進み、マハトはゲージに掛けられていた布を集めて戻ってきた。

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