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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
83/122

18.戦いの行方【4】

『ええいっ! しっかりせえー!』


 即座に声を掛けながらも、タクトは次の行動に僅かに躊躇した。

 今のタクトが封印された身で、術の行使に様々な枷があることもあったし、本来のタクトもクロス同様に、回復(ヒール)の扱いには苦手感を持っていたのだ。

 だがそこで迷った僅かな時間が、次の一撃を与えるロスタイムになってしまった。

 空気が震え、振り回されたサンドウォームの一塊がマハトを襲う。

 

『うおおっ、避けいっ、避けっ、マハーっ!』 


 タクトは悲鳴にも近い声を上げた。

 だが息を詰めしゃがみ込んでいるマハトが、即座に動けるわけもない。

 致命傷を受けて叩き飛ばされてしまった…と思った。

 しかしマハトの体は、紫色のオーラに包まれて、ふわっと地面に落ちていく。

 槍に貫かれた姿勢のままで、クロスが守護の(じゅつ)を放っている姿が見える。


『はあ……とりあえず、命拾いをした…。はあ……。だが状況は、悪いままじゃな…』


 室内には生き物とも思えない咆哮が轟き渡り、幻影のアルバーラの姿は無い。

 元はアルバーラだったそれ(・・)は、手足が触手のように伸びたかと思えば人間(リオン)の腕になったり、水かきやヒレになったり、そうかと思えば獣のような毛むくじゃらになったりと、意味不明な変化をしている。


『毒まんじゅうめ。とうとう人間(フォルク)の理性も失ってしもうたな…』


 マハトの右手はタクトを離さず握っていたが、左手にあったジェラートの透晶珠(リーヴィ)は、少し離れたところに転がり落ちている。


『マハ、立てるか?』


 返事はなかったが、マハトは咳き込みながらも体を起こした。

 すると、動いたマハトに反応するように、またもそれ(・・)の一部が襲い掛かってくる。


『こんにゃろめ!』


 床の上のジェラートの透晶珠(リーヴィ)から少年の幻影が立ち上がり、マハトの身を守るように守護の(じゅつ)を張った。


『こりゃ! そんな姿で気前よく(じゅつ)を使うでないわ!』

『だってここで気張らなきゃ、(あと)がないだろ!』

おヌシ(・・・)の言いたいことも解るが、無闇な行動は、勇気と違うぞよ』


 力押しで打撃を与えてくるそれ(・・)に押され、ジェラートが更に(じゅつ)を展開しようとした時。

 輝く雷獣が、それ(・・)の触手を引き裂いた。

 見れば、床に伏せたクロスが、辛うじて右手を上げて、(サークル)(くう)に描いている。


『ううむ。こうなれば仕方がない。ジェラート、これよりヌシを成人(マンナズ)とみなし、一人前の者とする。目一杯のチカラを使って、マハの身を守るのじゃ』

『合点承知!』

『マハ! ヌシはとにかく(やつ)に向かって儂を投げるのじゃ! (やつ)からの攻撃はジェラートが防いでくれるでな!』

「う……くっ…」


 よろめきながら立ち上がったマハトの手の中で、鎌状だった刃が、先端の尖った投擲用の槍へと姿が変わる。

 それ(・・)からの攻撃は全て、ジェラートが必死の形相で防いでいる。

 マハトは両足に力を込めて右手を振り上げると、槍をそれ(・・)に向かって投げ放った。

 真っ直ぐに飛ぶ槍の前を先導するように雷獣が走り、叩き落とそうと繰り出される触手の煤払いを勤める。

 それ(・・)に到達した槍は、マハトが想像していたよりも深々と…。

 今までそれ(・・)に捕り込まれてしまったものと同じように、タクトもそのまま失われるのかと懸念するほどに、槍の全身がそれ(・・)の中にめり込んでいった。

 そして、数秒の間の後に。

 それ(・・)全体が白色の火球となり、次の瞬間木っ端微塵に消し飛んで、目の前から消滅した。

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