18.戦いの行方【3】
魔力によって強化しているアルバーラの身を斬り裂くには、タクトの魔力が必要だ。
そして今は何があっても振り返ることは出来ない。
それをしてしまったら、総てが無為となり失われ、二度目は無い。
そのことは誰よりもタクトとクロスが理解っていることだろう。
『畜生めがっ!』
タクトの歯がみを聞きながら、マハトは握った剣の柄に一層の力を込めた。
クロスの氷結が途切れ、生気を取り戻したドラゴンの両腕と肩の切り口から、蔦のような植物が伸び合わされてするすると元の形に蘇る。
鋭い爪が再び迫り、ドラゴンは今度こそマハトの両肩を引き裂こうと、爛々とした瞳で睨みつけた。
「アルバーラアァ!」
膝を付き、左手でようやく身体を支えているだけのクロスが、右手を掲げ上げる。
空に描き出された陣から、電撃がマハトの背中目掛けてほとばしり、それはマハトの背中で金色の翼の形に広がって、ドラゴンの爪がマハトの肩に掛からぬようにと羽ばたいた。
「お前になど…、お前になど…神耶族を渡すものか……」
それはまったく、クロスに向けた呪詛のような声だった。
幻影のアルバーラの姿にノイズが走り、クロスを睨みつける顔が見知った醜女に変わる。
「その言葉は、そのまま返すぞ。どんな種族も、誰かに隷属なんてされちゃいけないんだ」
「神耶族のチカラなぞ、どうでもいいっ! 私が本当に欲しかったのは……」
アルバーラの意識がクロスに向いている隙に、マハトは一気にドラゴンのウロコを引き裂き、左手に掴んでいた透晶珠を、渾身の力を込めてもぎ取った。
ダメージの大きさに動きを止めたドラゴンの腹を蹴り、地面に降り立つ。
胸をえぐられたドラゴンは、そこでグラグラと蹌踉めいている。
マハトはクロスに向って駆け出した。
「クロスさんっ、ジェラートは取り戻したぞ!」
『マハっ、まだ、油断するでないっ!』
タクトの声が頭に響いた時には、マハトは背から脇腹に掛けて、なにかに激しく殴打されていた。
ドラゴンのカタチをしていたアルバーラの体は、見るも醜悪な姿に変化している。
取り込んだあらゆる生き物の部位が次々と現れては変質し、うねり、のたうちまわりながら、カタチを変えていく。
マハトを背後から横薙ぎにしたのは、その一群の中で激しく振り回された触手だった。
「…っ……は…」
膝を付いたマハトの、口の端から血が滴る。
息が詰まり、咳き込もうにも力が入らない様子だった。