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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
82/122

18.戦いの行方【3】

 魔力(ガルドル)によって強化しているアルバーラの身を斬り裂くには、タクトの魔力(ガルドル)が必要だ。

 そして今は何があっても振り返ることは出来ない。

 それをしてしまったら、総てが無為となり失われ、二度目は無い。

 そのことは(だれ)よりもタクトとクロスが理解(わか)っていることだろう。


『畜生めがっ!』


 タクトの歯がみを聞きながら、マハトは握った剣の()に一層の力を込めた。

 クロスの氷結(アイス)が途切れ、生気を取り戻したドラゴンの両腕と肩の切り口から、蔦のような植物が伸び合わされてするすると元の形に蘇る。

 鋭い爪が再び迫り、ドラゴンは今度こそマハトの両肩を引き裂こうと、爛々とした瞳で睨みつけた。


「アルバーラアァ!」


 膝を付き、左手でようやく身体を支えているだけのクロスが、右手を掲げ上げる。

 (くう)に描き出された(サークル)から、電撃がマハトの背中目掛けてほとばしり、それはマハトの背中で金色の翼の形に広がって、ドラゴンの爪がマハトの肩に掛からぬようにと羽ばたいた。


「お前になど…、お前になど…神耶族(イルン)を渡すものか……」


 それはまったく、クロスに向けた呪詛のような声だった。

 幻影のアルバーラの姿にノイズが走り、クロスを睨みつける顔が見知った醜女に変わる。


「その言葉は、そのまま返すぞ。どんな種族も、(だれ)かに隷属なんてされちゃいけないんだ」

神耶族(イルン)のチカラなぞ、どうでもいいっ! 私が本当に欲しかったのは……」


 アルバーラの意識がクロスに向いている隙に、マハトは一気にドラゴンのウロコを引き裂き、左手に掴んでいた透晶珠(リーヴィ)を、渾身の力を込めてもぎ取った。

 ダメージの大きさに動きを止めたドラゴンの腹を蹴り、地面に降り立つ。

 胸をえぐられたドラゴンは、そこでグラグラと蹌踉めいている。

 マハトはクロスに向って駆け出した。


「クロスさんっ、ジェラートは取り戻したぞ!」

『マハっ、まだ、油断するでないっ!』


 タクトの声が頭に響いた時には、マハトは背から脇腹に掛けて、なにか(・・・)に激しく殴打されていた。

 ドラゴンのカタチをしていたアルバーラの体は、見るも醜悪な姿に変化している。

 取り込んだあらゆる生き物の部位が次々と現れては変質し、うねり、のたうちまわりながら、カタチを変えていく。

 マハトを背後から横薙ぎにしたのは、その一群の中で激しく振り回された触手だった。


「…っ……は…」


 膝を付いたマハトの、口の端から血が滴る。

 息が詰まり、咳き込もうにも力が入らない様子だった。

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