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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
80/122

18.戦いの行方【1】

 ドラゴンへの牽制のための攻撃の呪文(スペル)詠唱(チャント)しながら、マハトを保護する(サークル)(くう)に描く。

 それらを同時にこなしながら、向こうの攻撃をかわすのは、かなり骨の折れる作業だ。

 それでもクロスは、その難しい課題をこなし続けていた。


 アルバーラの失踪は、偽装だった。

 ほとほと自分は目先の事にばかり囚われて、裏を読み、その先を読むのが下手だと痛感する。

 というかその言葉がそのまま、自分の人生の集大成にすら思えた。

 目先の事にばかり囚われて、間接的とはいえアルバーラの欲望に加担した。

 その結果、無関係な神耶族(イルン)を欲の餌食にしてしまうのかと考えた時に「それだけは、絶対に嫌だ!」と思った。

 自分がマトモな何かを掴めるチャンスは、きっとこれが最後だ。

 クロスはマハトを援護する防御(プロテクション)詠唱(チャント)をしながら、右手で雷撃(サンダー)分散(ディスペレーション)を組み合わせた(サークル)を描く。

 放った雷撃(サンダー)が、四方に散開して金色(こんじき)の獣を形作る。

 雷獣は、床や壁を身軽に走り、ドラゴンの注意を引き付け惑わしながら、取り込ドウォームといった、攻撃が通る箇所で電撃に変わった。


『解っとるなマハ! アレはドラゴンのカタチをしてはいても、本物ではない! 貴様がしっかり仕事をすれば、この儂が彼奴(きゃつ)のウロコを叩き割ってくれる! 渾身の力を込めて、背中まで貫くつもりで叩きこむのじゃ!』

「おまえのそれって、本当に人にものを頼んでる態度じゃないなあ」


 命令口調で指示をするタクトに、マハトが思わず呆れた声を返す。


『そんなだらけた声を出しおって、ヘマをするでないぞ! この作戦の "キモ" は、貴様の立ち回りに掛かっておるのじゃからな!』

「それは、重々判っている」


 タクトが見抜いたマハトの特殊技能(スキル)は、(イルダナハ)が意図せず呼び出してしまった幻獣族(ファンタズマ)などからの攻撃から身を守るための、特殊耐性(スキャルダー)である。

 それは人間(リオン)を遥かに上回る相手からの、容赦のない魔法攻撃を去なす能力だ。

 故に、アルバーラからの攻撃に対して、本来ならクロスの防御(プロテクション)耐性(レジスタンス)といったアシスタントは不必要だ。

 それを、クロスに無理をさせてまで行使させているのは、マハトがその特殊技能(スキル)持ちで有ることを、アルバーラに隠すためなのだ。

 ドラゴンの上に立つ幻影のアルバーラが、電撃を放ったクロスを憤怒の形相で睨みつけた、その隙をマハトは見逃さなかった。


「やあっ!」


 気合一閃、両手で握りしめた長剣を、深々と透晶珠(リーヴィ)の左下の(きわ)に打ち込んだ。


 こちらが接近戦に持ち込みたい意図を隠すのが、クロスのアシスタントに拘っていた最大の理由だった。

 特殊技能(スキル)持ちのマハトがアルバーラのウロコにタクトの刃を突き立て、引き裂いて、進退窮まってしまったジェラートを取り戻す。

 それがタクトの立てた作戦なのだ。


 胸を深く突かれたドラゴンが、咆哮を上げる。

 空気がビリビリと振動するその咆哮にも、マハトは動じなかった。

 ドラゴンの胴体をがっしりと踏みしめて、左手でジェラートの透晶珠(リーヴィ)をしっかりと掴む。


『よおしっ! そのまま透晶珠(リーヴィ)を抉り取るのじゃっ! 儂の魔力(ガルドル)は使いきり、二度目は無いと肝に銘じてなっ!』


 突き刺さっていた長剣が、厚みのある鎌状へと刃の形に変える。

 マハトは掴んでいる()に力を込めて、その片刃をグイと動かした。


「私の邪魔をするなぁあああっ!」


 激しい咆哮を上げながら、ドラゴンが鋭く硬い爪の生えた両腕でマハトの肩を掴む。

 鋼の肩当も貫いて、ドラゴンの爪がマハトの肩に食い込んだ。

 それでもマハトは剣に込めた力を緩めようとしないので、ドラゴンはマハトを引き剥がさんと、めきめき力を増してくる。

 マハトの肩の辺りから、骨が軋むような鈍く不穏な音がした。


「オマエの相手は、俺だろうっ!」


 クロスの描いた(サークル)から、青白いオーラを纏ったスノーバードが飛び立った。

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