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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
79/122

17.ライヴァル【5】

 禁書とされる古文書(フォニルスキャル)を読める立場にあったクロスは、研究考察を行う魔導士(セイドラー)たちが、自分の論文を考察している間に、既に神耶族(イルン)の存在を確信していた。

 だがそれは、同じ資料を見られる立場にあったアルバーラも同様だった。


 憎しみと怒りの矛先をクロスに向けたアルバーラは、セオロの知識に頼りつつも、自分でも古文書(フォニルスキャル)の解読を進めていた。

 とにかくクロスに一泡吹かせてやりたい。

 そのためには、クロスが憧れている神耶族(イルン)を、自分が手に入れたい。

 そして、伝説のフィルギア王のように神耶族(イルン)を隷属させて、クロスが悔しさに地団駄を踏むさまを眺めたい。

 最初はそう考えた。


 けれど、古文書(フォニルスキャル)の解読が進むに連れ、宴の食卓(フリムニル)(じゅつ)を知った。

 神耶族(イルン)を手に入れれば、世界を手に入れられるかもしれないが。

 脆弱な人間(リオン)を相手にするなら、神耶族(イルン)ほどの強大なチカラがなくとも、制圧することは可能だ。

 既に自分の魔力(ガルドル)だけで、持たざる者(ノーマル)など取るに足らないのだから、(あと)は同業者たる魔導士(セイドラー)の頂点に立つことさえ出来れば良い。

 ならば、神耶族(イルン)入手より手っ取り早く、宴の食卓(フリムニル)によって人間(リオン)を超越したチカラを手に入れてしまおう。


「私を捨てた親、私を穢した持たざる者(ノーマル)たち、この世界全てを踏み潰してやる! そして最後に、あのヘタレなクロスの眼の前で、あいつが何より尊んでいる神耶族(イルン)をも貶めて、あいつの理想の世界をぶち壊してやる!」


 そのためにまず、毒耐性の特殊技能(スキル)を持つ獣人族(セリアンスロウ)として、蛇人族(ラミア)にターゲットを絞り、街なかで見つけた(もの)を甘言で誘って宴の食卓(フリムニル)の餌食とした。

 人間(リオン)と大差ない能力値(ステータス)と言われていたが、何もせずに自身の能力値(ステータス)が目に見えて上がったことに、アルバーラは勝利を確信した。

 忠誠心が薄く利のない弟子や、街で見かけて口先三寸で騙した獣人族(セリアンスロウ)など、契約を交わした相手を餌食にすることで、いろんな知識を得た。

 満を持して、下級の幻獣族(ファンタズマ)を取り込んだ時は、得られた能力値(ステータス)の大きさに歓喜したが、徐々に体が変容し始める。

 それは少々予想外の、正直望まぬ結果であったが、既に自身の姿は常に幻像術(ブリンディ)で別物を投影している。

 だが油断は禁物だと考えたアルバーラは、それから表に出ることを極力控えた。


 獣人族(セリアンスロウ)たちの持つ、人間(リオン)の知らない知識のおかげで、アルバーラは(だれ)よりも早く神耶族(イルン)の情報を得ることが出来た。

 このチャンスを逃してはならない。

 そこでアルバーラは、初めて側近の四人の弟子に神耶族(イルン)の存在が伝説ではないことを話した。

 先に話せば、彼らが容易に裏切ることを考えて、ギリギリまで内緒にしてあったのだ。

 そして弟子たちを使って罠を仕掛け、守護者(ケルヴィンガー)核化(フィルギナイズ)に成功した。


 だが、自分を踏みつけにした(もの)や、クロスに絶望を味合わせるためには、魔導組合(セイドラーズギルド)の枠組みやら、些末な表の顔のための取り繕いなどに縛られてなどいられない。

 そのために、自分の死を偽装した。

 自分がいなくなれば、アンリーとルミギリスは必ず裏切って、自分が神耶族(イルン)を手に入れようと動くことも、もちろんアルバーラの計画の内だった。

 失踪を偽装したところで、セオロを宴の食卓(フリムニル)の餌食にする。

 そうしてセオロのフリをして、アルバーラは時が来るのを待っていた。


 宴の食卓(フリムニル)によって、人間(リオン)のレベルを遥かに凌駕した魔力(ガルドル)と、各種の幻獣族(ファンタズマ)特殊技能(スキル)を備えた今の自分ならば、クロスの能力の全てに勝っている。

 出来ることなら契金翼(エヴンハール)と成り、更に神耶族(イルン)を従属させた姿を見せつけてやりたいと思っていた。

 だが既に神耶族(イルン)は我が手中に収まり、必死になって取り戻そうと無駄な努力をして後悔にまみれているクロスを踏み潰すことで、溜飲を下げてやろう。

 ひときわ大きな咆哮を上げ、ドラゴンはその標的をクロスへと定めた。

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