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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
78/122

17.ライヴァル【4】

 一門を立ち上げた当時のクロスは、古文書(フォニルスキャル)を読み漁ることに注力していた。

 というのも、師匠の元で周囲の人間関係から逃げて本を読み漁っていた頃、クロスはヒトならざる者(ヴァリアント)の存在に触れ、それに強い憧れを抱いていたからだ。

 魔導組合(セイドラーズギルド)議会員(パーラメントシート)として議席を得た(のち)も、その研究テーマだけは変えずにずっと続けていた。


「自分がヒトならざる者(ヴァリアント)にはなれないけど、孤高の賢者はヒトならざる者(ヴァリアント)に近い存在っぽいな」


 など考えていたクロスだったが、同時にその頃には "根回し" やら "人脈" といったことを一通り学んでいたので、一部の "禁書" を閲覧できる機会も得ていた。

 同時期に一門を立ち上げたアルバーラは、(くだん)の "魔力持ち(セイズ)持たざる者(ノーマル)よりも優れている" とのスローガンを掲げ、無制限に弟子を迎え入れていた。

 この過激派思想を憂いた穏健派は、常に彼女のライヴァルと目されていたクロスの元にやってきて、持たざる者(ノーマル)との共存のためにトップに立つように要請してきた。


「そんな面倒なこと、引き受けるのはまっぴらだ」


 と、クロスはそれを断ったのだが。

 古文書(フォニルスキャル)や禁書を閲覧しようとすると、アルバーラからの邪魔が入る。

 クロスが引き受けようが引き受けまいが、アルバーラは自分を "敵" 認定して、研究を妨害してきていると感じたクロスは、最終的に旗頭としてトップに立つことを引き受けた。

 しかしそこでトップに立ったことで、クロスは己の視野の狭さ、人望の無さ、神経質で引っ込み思案な "魔導士(セイドラー)根性" の根深さを痛感した。

 アルバーラは、最初に掲げたスローガンによって、過激派思想の魔導士(セイドラー)の注意を引き、更に弟子を無限に受け入れることで、若い才能をどんどん手元に引き寄せている。

 弟子の面倒を弟子に任せているが、そもそもその取りまとめ役の弟子の人選は自分でしているらしい。


「いちいち、全員と面接なんて……無理」


 研究肌で内気なクロスには、出来る(わけ)もない。

 求心力も、人望も、アルバーラの(ほう)が勝っている。

 その焦りが、ヒトならざる者(ヴァリアント)の研究への、クロスの気持ちを少し狂わせた。


 クロスは以前から、古文書(フォニルスキャル)に書かれているヒトならざる者(ヴァリアント)と、異形(ヴァリアント)という記述に疑問を持っていた。

 飛び抜けた能力を持つその存在を、神の如く崇めているのではなく、荒ぶる神として畏怖している、その描写。

 ちょうどアルバーラとの覇権争いが激しくなってきた頃、ストレスからの逃避目的でクロスは古文書(フォニルスキャル)をあさりまくっていたのだが。

 ふとヒトならざる者(ヴァリアント)異形(ヴァリアント)は、表記の誤差ではなく、別の言葉なのではないか? と言う疑問を持った。

 というのも、異形(ヴァリアント)と表記されている古文書(フォニルスキャル)の数は非常に少なく、更にその表記を使っている古文書(フォニルスキャル)は、偏った地域から発見されたものに限っていたからだ。

 一種の方言と片付けてしまうには、ヒトならざる者(ヴァリアント)の表記もあり、それぞれが別のものを示す単語として解釈することも可能だった。

 一括りに "大きな能力値(ステータス)を持つ人間(フォルク)以外の種族" を示すヒトならざる者(ヴァリアント)

 人間(フォルク)のような矮小な存在を、永遠不滅の存在に引き上げてくれる "能力" を持つ異形(ヴァリアント)

 歴史の中のある時を境に、人間(フォルク)には種族名すらわからなくなってしまった存在があるのでは? と考えた。


 そこでクロスは、その考えを論文にして発表した。

 今までになかった考察の論文は、魔導士(セイドラー)の間で一大センセーションを巻き起こし、激しい論争を呼んだ。

 とはいえ、それはクロスが望んだ結果だったと言える。

 センセーショナルな論文を発表し、注目を浴びること。

 それはアルバーラに対する牽制として、自分が優れた研究理論を行っていることをみせつけるために必要だと思ったからだ。


 研究考察に活動の重きを置いている他の魔導士(セイドラー)たちは、クロスの論文を元に更なる吟味と解析を行い、それは伝説上の種族 "神耶族(イルン)" を示すものではないか? との判断がなされた。

 反面、それはあくまでも偏った地方の古文書(フォニルスキャル)を元にしているため、伝説の種族である神耶族(イルン)の存在が事実かどうかは疑問視されたままだった。

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