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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
68/122

15.喰らいつくす【3】

「アンリー、覚えているかい、誓約書のことを!」


 名指しをされて、アンリーは一瞬ビクリと体をすくませたように見えたが、それで茫然自失から立ち直ったように顔を上げた。


「ア…アンタに師事している限り、アンタに忠誠を尽くせとかいう、あのクソ鬱陶しいアレか? 覚えてるさ!」


 更に、そこで声を出し、見慣れた師匠に向かって声を出して話しかけたことで、気を取り直したように勢いづく。


「俺は! 忠誠の限りを尽くしたぜっ! 少なくとも、アンタが生きてたあいだはな! そしてアンタは死んだんだ! 俺は…アンタの後継者だ! 今更戻ってきたところで、居場所はねぇ!」

「馬鹿なコだねぇ、本当に。私はふり(・・)をしていただけで、一度も死んでない(・・・・・・・・)。誓約は、途切れていないんだよ。ほら、早く忠誠をお示し! その取るに足りない無駄な人生を、私が意味のある糧にしてやってるんだ!」

「ふざけんなっ! 俺は俺の夢を果たすんだ!」


 銀色の鱗に覆われたドラゴンの上で、アルバーラの幻影が嘲笑う。

 アンリーは、舌打ちをした。

 確かに一門の中で、自分は一番の魔力(ガルドル)を持った(もの)だ。

 だがアルバーラ一門は魔力(ガルドル)で弟子の優劣を決めない。

 ルミギリスは確かに魔力(ガルドル)が大きいゆえに二番弟子と認められたが、彼女がその座にいるのは、カービンとの絶妙なるコンビネーション故だ。

 あの二人が徒党を組むことで、彼女たちの能力は三倍にも四倍にもなる。

 カービンあってのルミギリス、ルミギリスあってのカービン、それを理解していたアルバーラは、彼女たちを二番と四番に据えた。


 むしろ、アルバーラの一番のお気に入りはセオロだっただろう。

 言葉通り、忠誠心に厚く決して逆らわず、師匠が望むままに自身の知識を高め、最も必要な情報を得る。

 魔力(ガルドル)がさほど高くない点を考え、他の弟子たちの反感を買わぬように、三番という絶妙な立場を与えられた。


「なあ、師匠。俺はアンタの、恋人なんだろ? そんな俺を喰うのかよ?」


 アンリーは、閨で師匠に囁いた声で、甘えるようにそう言った。

 このままでは、最も魔力(ガルドル)が高いのに、自分は四天王にすらしてもらえない。

 そういう危機感を覚えたアンリーは、そこで(おのれ)の最大の武器である "容姿" を駆使した。

 そもそも背丈や容貌に難があり、更に持たざる者(ノーマル)に迫害を受けた魔導士(セイドラー)達は、アンリーのような整った容姿の(もの)が優しく声を掛ければ、大概はすぐにも落ちる。

 アルバーラはさすがに簡単にはいかなかったが、それでも半年ほど口説いたところで、アンリーは弟子の筆頭に抜擢されたのだ。


「バカだね、アンリー。なにが魔導士(セイドラー)随一の伊達男さ。オマエの価値なぞ、セオロほどもないよ」


 返された答えに、アンリーはますます顔を強張らせたが、ギリリと奥歯を噛むと、不意に表情を蔑みに変える。


「確かにアンタは、魔導士(セイドラー)らしからぬ美貌のオンナだったさ! だがルミギリスが言うように、もう(トウ)が立ったババアだ! アンタみたいなバアサンよりも、俺のような若く美しい(もの)こそが、人間(リオン)の統治者にふさわしいんだっ!」

「なにが統治者だ。オマエはせいぜい、美女を侍らせ美酒を食らう以外の夢なぞ、持っちゃいないだろう。さあ、おとなしく忠誠を示せ!」

「冗談じゃない! (だれ)が殺されるための忠誠など誓うもんか!」

「オマエは忠誠の意味を理解していないようだね。忠誠とは、すなわち誓った相手のために生命を投げ出すことだ」


 ドラゴンが身を屈めたところで、アンリーは(くう)(サークル)を描いて一撃を見舞った。


「まるで効かないね、どいつもこいつも不肖の弟子ばかりだ」


 アンリーが渾身の火力で放った一撃は、ドラゴンの鱗一枚傷つけていない。


「よせアンリー! そんなバケモノ相手じゃ、小手先の(じゅつ)なんか効かないぞ!」


 叫んだクロスに向かって、ブンと空気が動く音がして、ドラゴンの尾が真上から襲いかかった。

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