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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
66/122

15.喰らいつくす【1】

 干からびた植物とサンドウォームを乗り越えて、クロスは玄関ホールへ飛び込む。

 廊下ではほとんど何も聞こえなかったのに、ホールの中は目の前がチカチカするほど、色とりどりのオーラを放つ(サークル)が飛び交っていた。


「なんだこれ…?!」

「ビンちゃん! もっと援護増やして!」

「ルミー! そっちに行くよ!」


 空中に撒き散らかされている(サークル)は、ルミギリスの仕業のようだ。

 アシスタントに回っているカービンは、時々爆風に蹌踉めきながらも、次々に種子をばら撒いていて、室内はうねうねと動き回る蔦だらけだった。

 だが、サンドウォームが倒れ、アンリーはこちら側でクロスと対峙していたのに、一体なにと戦っているのか…?


「ルミー、これってホントにセオロなのっ?」


 種子をばら撒きながら、半べそをかいてカービンが叫んだ。


「いやだなカービン。僕はずっと一緒に修行をしていた、セオロだろ」


 声のほうに振り返ると、確かにそこにはセオロが立っていた。

 だがカービンが言った通り、クロスも見知っていたセオロとは明らかに様子が違う。

 ルミギリスは、並以上と見なされている魔導士(セイドラー)だ。

 セオロがルミギリスと真っ向勝負となったら、よほど綿密な作戦でも無い限り、互角に戦えるはずが無い。

 そのセオロが、絶妙なコンビネーションで繰り出される、ルミギリスとカービンからの攻撃を、いともたやすくあしらっている。

 ありえない光景だった。


「おや、クロスさん。どこへ()ったかと思ってたら、随分と良い物を持ってきたじゃないですか。せっかくだから、それは僕がもらっておきましょう」

「キミ、アンリーのコトを友人として()めに来たって、言ったよね? それに、神耶族(イルン)を扱いきれる自信も無いって」

「確かに、僕はそう言っていたし、僕には神耶族(イルン)を扱えるだけの実力もありません。僕には…ね」


 ニイッと笑ったセオロの顔が、その瞬間クロスには口が耳まで裂けて見えた。


「な…んだ…?」


 なにかが揺らめき立って、セオロの姿がどんどん見えなくなる。


「セオロ!」


 豹変する友人に驚いているアンリーが、クロスの火炎(ファイア)に焼かれた髪と顔のことも忘れたように立ち尽くしている。


「おや、アンリーか。悪いが私は、あんたの誘いなんかお断りだね。世界を回すどころか、あんたは何も解っちゃいない。封印しても厄介な大人の神耶族(イルン)なんて、実験材料にも使えやしないよ」


 広い部屋の対角線上にいるのに、セオロの伸ばした右腕は、クロスの抱えているジェラートに向かってどんどんと伸びてくる。


「うわっ!」


 咄嗟にクロスが飛び退いたことで、かろうじてセオロの腕を避けた。

 その間に、ルミギリスが割り込んでくる。


「その神耶族(イルン)はボクのだぞーっ!」

「本当に鬱陶しい小娘だね! オマエもそろそろ消え時だよおぉオオオッ!」


 口調が別人のようになり、怒鳴りつけてきたセオロはその言葉の途中から、声までが獣の咆哮に変わる。

 セオロの姿は、ドラゴンへと変貌した。

 大きさは三メートル程度で、ドラゴンとしてはかなり小型であったが、いやに頭が大きくて、それがワニのように大きく裂けた口をグワリと開く。


「きゃーっ!」

「ルミー、危ない!」


 ルミギリスを庇ったカービンが、ドラゴンの口の中へと消えた。


「きゃーっ! ビンちゃーん!」

「喰った…」

「セオロ! おまえ、それはなんだ……っ?!」


 驚愕に震えながら、アンリーは独り言のような疑問を口にする。

 悠然と室内を見回しているドラゴンの身体が、クロスの目の前で一段と大きく膨らんだ。

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