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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
62/122

13.一番弟子【2】

「なんだ?」

「まずいよクロスさん。思い出したんだけど、この屋敷の床下に、師匠は土蜘蛛を飼ってたんだ」

「ええっ虫っ!? 勘弁してよ!」

「蜘蛛は虫じゃありませんよ」

「同じだよ! どうせ足が三本以上あるんだろ!」

「今問題なのは足の数じゃなくて、大きさのほうじゃないかな…」


 セオロの言葉がおわらぬうちに、クロスの直ぐ(そば)の土の中から、毛むくじゃらで鋭い爪の生えた蜘蛛の前脚が飛び出してきた。


「わああっ!」


 クロスが慌てて飛び退く。

 前脚に続いて、薄暗い穴の中でもギラギラしている複数の目が現れ、土蜘蛛の全容が姿を現す。


「うっわ…、マジ無理!」


 二つの大きな正面の目は、クロスの胸辺りの高さにあり、それに応じて全体も普通の蜘蛛からは想像を絶する大きさだった。

 全身が針金のような細かい体毛に覆われていて、八本の脚それぞれに、鋭利で大きな爪が付いている。

 土から出てきた時も静かだったが、動きにまるで音が無く、威嚇音も出さないが、むしろその静かな威嚇がなおさら不気味だ。

 なんの予告もなく、蜘蛛が跳ねた。


「わ~っ!」


 柱に取り付いた蜘蛛は、柱から柱へと飛び移っていく。

 素早すばやい動作で立体的に移動しながら、八つの目が忙しなく動く様が、更にクロスを怖気させた。


「ああいやだいやだ! なんでアイツらってそーいう動きするかなぁ! スッゲェびびるから、マジやめてほしい!」

「クロスさん! 愚痴たれてるヒマはありませんよ!」


 予想出来ない方向へ飛び移りながら、蜘蛛は真っ白で粘着性のある糸を吐き付けてきた。


「やだやだやだやだ!」


 糸はフワフワと宙を漂いつつ落ちてくるものと、速度を持って打ち込まれてくるものがあり、更に本体が柱から柱へと素早すばやく移動することで、さほどの広さもない場所で次第にクロスを追いつめてくる。


「クロスさん!」

「ホント、忠実な使い魔(スレイブ)だね~。アルバーラの失踪後は、ずっと放置にされてたんだろうに、俺にロックオンして絶対外さないって、凄すぎでしょ…」


 クロスは蜘蛛の動きも、張り巡らされた罠も、落ちてくる糸にも構わずに、落ちた穴の真下に立って溜息を()いた。

 それから顔をスッと上げて、おもむろに拳を握りしめた左手を真上に向かって伸ばす。

 蜘蛛が柱から柱に飛び移り、丁度クロスの頭上を横切った瞬間、握っていた左手を大きく開いた。

 左手の(てのひら)から、(くう)に向かってきらめきながら(サークル)が浮き上がる。

 柱の陰から様子を見ていたセオロは、驚愕していた。


「いつのまに…!」


 クロスは穴の中央に立ってから、指先で術式を(くう)に描くような所作はしていなかった。

 事前に何らかの術式が描かれていたならば、玄関でドアノブを引っ張っていた時に見えたはずだ。

 眼の前の、高く掲げ開いた(てのひら)にはそれらしい魔道具(ガルドラル)もない。

 ということは、クロスが穴に落ちてからそこに立つまでの間に、(ヘンジ)を刻んでいたとしか思えない。

 放たれた雷撃(サンダー)は、最初は光る円が回っているだけだったが、次第に大きさを増していき、蜘蛛の網を上回る網目状の稲妻となって地下の天井を覆った。

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