表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
60/122

12.三番弟子【2】

 一般的に、そんな容姿の(もの)は、男女を問わず人見知りなイメージが有る。

 そもそも魔導士(セイドラー)は神経質で引っ込み思案な(もの)(ほう)が多く、コミュ力に長けているタイプは少ない。

 だが、アルバーラはそんなクロスの予想に反して、不思議なほど自信に溢れて明るい性格をしていた。

 快活に笑い、楽しげに喋り、大概のものが気づけば彼女の話に引き込まれている。

 そんな巧みな話術で他人の心をつかみ、場の流れを自分の有利に運ぶ才能に長けたアルバーラは、無制限に受け入れた弟子を養えるだけの(かね)を、スポンサーから易々と引き出していた。


 無数の弟子の中から、扱いやすく才気に溢れた(もの)を選び、手間の掛かる文献の検証や裏付け、資料集めやその解析などをやらせる。

 更に、それらをセオロに精査させ、古代魔法(フォニルガルズ)のお披露目のような派手な表舞台には自分が立つのが、彼女の常套手段なのだ。

 それが禁忌の(じゅつ)となれば、その全てを解析したのはセオロに決まっている。

 それが "解明が進まない" とは、どういうことだろうか? と引っかかったのだ。


「キミほどの知識で不満を言われちゃ、たまったもんじゃないな…」

「でも、核化(フィルギナイズ)は解析出来ましたけど、未だに神耶族(イルン)能力値(ステータス)がどうすれば付与されるのか、僕には解明出来てませんし…」

「ああ、なるほど…」


 屋敷の扉の前に立ったセオロは、そこでクロスに振り返る。


「大丈夫ですか?」

「えっ、なにが?」

「此処、気持ち悪くないですか?」


 セオロは、いかにも薄気味悪そうに屋敷を見ている。


「だって、キミの師匠の研究室だよね?」

「そうですけど。でも、師匠が健在だった頃から、僕はこの屋敷は苦手なんです」

「だってそんな禁忌の(じゅつ)の研究してたトコなら、むしろキミが一番出入りしてたんじゃないの?」

「いいえ、僕の研究結果を師匠が一人で検証してたんです。だから僕は、あまり此処には来てません。師匠は中でいろんな生き物も飼っていて、鳴き声とか蠢く音とか、ホント気持ち悪かったんです。こうしてると、あの呻きがまた聴こえてくる気がする」


 小心者のクロスには、話を聞くだけで怖気がしてくる。

 しかも改めて屋敷を見ると、どうやらアルバーラが失踪してからろくに手入れもしていない様子で、垂れ込める廃墟感に背筋がゾワゾワした。


「でも、入らないワケにはいかないでしょ…」

「ですよね」


 諦め顔で両開きの扉のノブに手を掛けたセオロは、すぐに顔をしかめた。


「開かない」

「鍵が掛かってるんじゃないの?」

「いえ、こんな場所ですから、師匠は鍵を付けてません」

「あんまり放ったらかしてたから、錆びて開かないんじゃないの?」


 クロスも試して、両足を踏ん張り、顔を真っ赤にして、あらん限りの力を出して引っ張ってみたが、扉はビクともしなかった。


(じゅつ)でも掛けてあるのかな。でもそうだったら、僕には開けられませんし、クロスさんにも無理ですよね」


 肩で息を切らせながら、クロスはセオロの顔を見て、それから屋敷を振り仰いだ。


「ねえこれ、ホントに引く扉?」

「はい?」


 セオロが首を傾げているので、クロスは改めてドアノブを掴み、押した。

 軋んだ音を立てつつも、扉は簡単に内側に開いた。


「…マジ?」

「やあ驚いた、クロスさんは大したものですねえ」


 他人事みたいに言うセオロを、クロスはつい睨んでしまった。

 するとセオロは、ペコリと頭を下げる。


「すみません。なにしろ僕は、此処には滅多に来ませんでしたから」


 そう言われてしまったら、バカバカしい無駄働きをさせられたことも、それ以上怒る(わけ)にもいかない。

 クロスは埃っぽい室内に踏み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ