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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
56/122

11.魔導士の事情【1】

 魔気(ガルドレート)が染み込み、雑草の一本も生えない砂漠の真ん中に、一軒の建物がある。

 クロスは、その前に立っていた。


 広い敷地は、門扉の切れ目以外はガッチリと囲まれており、設置された壁にはちょっと大きめの街で使われるような魔道具(ガルドラル)が使われて、敷地全体が防御(プロテクション)で包まれているようだ。

 それは周囲の魔気(ガルドレート)から敷地を守っているように見えて、その(じつ)、内側にあるものを隠そうとしているようにも見える。

 壁の内側は、砂漠の不毛さと真逆に、ジャングルのように鬱蒼と樹木が茂っている。

 門扉の手前にいた小さなシルエットが、クロスが近付いたことで飛び立つ。

 合切袋から瓶を取り出しフタを開けると、カマキリはおとなしく中へと収まった。


「鳥を追いかけるのに虫を使うと、鳥に食われる危険があるから勧めないって、あなたが言ったんじゃないですか?」


 後ろから片足を引きずりながら歩く音が近づいて来て、クロスに声を掛けてきた。

 近付いてきたのは、アルバーラの三番弟子であるセオロだった。

 魔導士(セイドラー)にしては人並みの体格をしているが、持たざる者(ノーマル)の男として見れば少々小柄(こがら)で、顔つきも童顔(どうがん)な、地味で目立たない人物だ。

 ルミギリスとカービンがあまりにもべったりな関係なために、周囲からはアンリーと一緒にされがちだが、セオロはそれほどアンリーとつるんでいる(わけ)ではない。

 ただ三番弟子だったセオロが、弟子の筆頭であるアンリーに従っていたという感じだ。


「喰うに困る切羽詰まった冒険者(アドベンチャー)…って前提じゃなかったからね」


 冒険者(アドベンチャー)稼業を始める前、クロスは一門を立ち上げ、弟子をとり、己の研究に没頭している一人の魔導士(セイドラー)であった。

 当時のクロスは、魔導組合(セイドラーズギルド)議会員(パーラメントシート)に名を連ね、大きな街の高級住宅街に広大な邸宅を構え、討伐を頼まれた妖魔(モンスター)を易々と使い魔(スレイブ)とし、手足のごとく使っていた。

 だが今は食うや食わずの流れ(もの)の身となっている。

 自分だけならパンと水だけの生活も仕方ないと思えばいいが、連れ歩いている動物が衰弱するところなど見たくない。

 結局、その生き物が死んだ時に、自分の柔らかすぎるメンタルが耐えられる生き物は、虫に限定されることを自覚して、これだけを連れているのである。

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