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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
50/122

9.古代の遺跡【1】

 ルミギリスとカービンはその存在に全く気付いていなかったが、マハトから少し離れた砂の上に、タクトの短剣が突き刺さっていた。


『くそ忌々しい!』


 クロスの申し出を引き受けはしたものの、今のタクトはそうそう気軽に行動する(わけ)にはいかなかった。

 タクトの身に施されている核化(フィルギナイズ)は、クロスが語った伝説の "人間(フォルク)の独裁者・フィルギア" が考えた(じゅつ)である。

 それは精的(スピリチュアル)なものである魂魄(ヴェッテイル)を、透晶珠(リーヴィ)という物理的(マテリアル)なものへと変える。

 透晶珠(リーヴィ)にされてしまうと、能動的な行動は総じてとれなくなるため、タクトは自身の身体が変容し始めた時に、その場にあった剣に(じゅつ)を掛け、透晶珠(リーヴィ)をその剣の一部になるようにした。

 ジェラートが身を守るための武器を持たせつつ、自身を持ち運ぶことを兼ねて、都合が良かったからだ。


 透晶珠(リーヴィ)であっても、手足を使わない(じゅつ)の行使は可能だが、やはり様々な枷がある。

 神耶族(イルン)の肉体である時ほど迅速な技の発動が出来ないし、神耶族(イルン)であれば息をするように戻せる魔素(ガンド)の取り込みに、やたらと時間が掛かるのだ。

 使った分を速やかに取り戻せないとなれば、強大な魔力(ガルドル)を放出するタイミングは、慎重に見極めねばならない。

 タクトは周囲の気配を探った。


 すり鉢の表面の砂は、ところどころで動いている。

 それは斜めに傾いている表面の砂が移動しているのでは無く、サンドウォームが移動した影響による、もっと地中の奥から()る動きだろう。

 遺跡の規模は、かなり大きい。

 タクトがザッと把握しただけでも、辺鄙な町ではなく、もっと大きく栄えた街といった様子だ。

 砂漠が不毛の地になった理由を軽く流した程度に、タクトは人間(リオン)同士の権力争いになんの興味もない。

 人間(リオン)にとっては悠久(ゆうきゅう)の時を掛けねば浄化されない土地であっても、それ以上の寿命を持つ神耶族(イルン)にとってはそれすらも些細な出来事に過ぎないため、わざわざ澱みを作る彼らを迷惑だと思っても、その戦いに介入する気にもならない。

 そんなことよりも今は、サンドウォームが地下の砂を大きく動かした結果、埋もれた遺跡が崩れる気配が感じられることの(ほう)が問題だ。

 崩落はサンドウォームが動いた場所を中心に起こると考えると、自分たちが居る場所はその真上…ということになる。

 時間が迫っている中、此処はもう賭けに出るしかないだろう。


 ジッと場を読んで、砂が崩れる方向を伺い、慎重に魔力(ガルドル)を配分して力の浪費を最小限に抑え、短剣の角度をほんの少しだけ変える。

 崩れる砂と共に、短剣は緩い円を描きながらマハトの脇へ滑り落ちた。

 そこでタクトは、魔力(ガルドル)によって自身の体を実体化させる。

 そして倒れ込んだマハトを抱き起こすと、その(ひたい)に自分の唇を寄せた。

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