表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
46/122

7.おかしなコンビ【1】

 確かにこんな場所なら、不審者が隠れていても判らないだろう。

 乾いた粘土を積み重ねて作られた建物の合間を歩いていると、聞き覚えのある声がした。


「ビンちゃ~ん!」


 一段と高い位置から、声がしている。


「ルミ~、ゴメン~、捕まっちゃったぁ~!」

(たれ)が勝手に喋って良いと言ったか!』


 後ろ手に縛られているカービンが情けない声を出すと、タクトが苛立ったように叱りつけた。

 だが彼女は、特に反論もしない。

 というか、カービンの様子を見るに、彼女はタクトの存在を認識出来ていないらしい。

 持たざる者(ノーマル)のマハトならばいざ知らず、大所帯のアルバーラ一門の四天王の一人であるカービンが "視えない" のはどうなんだろう?

 と、思いつつも。

 反面、カービンがその大所帯の中で四天王の一人になれたことにも疑問はあったので、クロスは疑問に思いつつも心のなかでスルーしていた。


「悪いヤツらめ! ビンちゃんを追っかけまわして、捕まえたりして!」


 叫びながらルミギリスが、カービンの縄を掴んでいるマハトに向かって小石を投げつけてくる。

 長躯(ノッポ)なカービンに対し、こちらは非常に短躯(チビ)なルミギリスは、幼い顔立ちも相まって、子供に見えかねない。

 しかしそれ以上に態度が幼稚で、投げつけられた小石を軽く弾きながら、マハトは少し呆れたように呟いた。


「自分のことを棚に上げてよく言えるな…」

「おいルミギリス、攫った子供を返せ!」

「あれ~? あれれれれ! クロスさんじゃん、ひっさしぶり~!」


 ルミギリスはピョンと飛ぶと、齧歯目(げっしもく)の小動物が高い木を降りてくるような仕草で、建物の上から器用にスルスルと一行の前にまで降りてきた。


「ジェラートはどこだ!」

「それはナイショだよー。それにあのスイートキャンディーは、ボク達の師匠が見つけたんだから! 横取りなんかさせないからね!」

「横取りに来たんじゃない、俺はジェラートを助けに来たんだ」

「どーだか。キミ、いっつも綺麗事ばっか言ってたケド、そんなにご立派でもなかったんじゃないの〜? 孤高の聖人君子を目指してるとか言いながら、古代魔法(フォニルガルズ)の資料集めにあっちこっちに手を回すので、ウチの師匠としのぎを削りまくってたし、穏健派の旗頭になってたよね〜え?」


 ルミギリスの言葉に、マハトは少し驚いた顔でクロスを振り返る。

 だがクロスは、先程のタクトの時と同様に、こちらも無視した。


「貴様ら一派のゴリ押しが酷いから、仕方なく引き受けただけだ!」

「周りに勧められて~断れませんでした~って? ウッソくさ! でももうそんなコトはどっちでもいいよ、どっちにしたってあのスイートキャンディーはボクのものだよ~だ!」

「そうかい! じゃあカービンはこのままでいいんだな!」


 クロスは、後ろでマハトが捕まえているカービンを指差した。


「ビンちゃん!」

「ルミ~~~~」

「言っとくが俺はカービンに微塵も同情してないから、ジェラートの守護者(ケルヴィンガー)がカービンを絞めたって、一切助けないぞ!」

「非力なビンちゃんを人質に取るなんて、鬼! 悪魔! ひとでなし!」

『子供を攫うほうが卑劣であろうが、このヒダリマキ女め!』


 ルミギリスに向かってタクトが怒鳴り返したが、どうやらルミギリスにもタクトの声は聞こえないらしい。

 常にアンリーと一番弟子の座を競っていたルミギリスは、カービンと違ってその実力は本物(・・)だ。

 そのルミギリスまでもがタクトを認識出来ないことに、クロスは一種の怒りに似た苛立ちを覚えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ