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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
41/122

5:神にも等しい種族【1】

「アルバーラ? 知り合いか?」

『このサウルスは、アルバーラを知らんのか!』

「一体、(だれ)だ?」

『蒸しまんじゅうのようななり(・・)をした稀代の毒婦! 悪魔の如き魔導士(セイドラー)じゃ。儂とジェラートを、ずっと付け狙っておってな』

「ジェラートというのがあの子供の名前なんだな」

『ああ忌々しいっ! あんな詐欺師のような毒まんじゅうに追い回されなければ、こんなヘタレとサウルスに、我らの仮名(ケニング)を教える必要もなかったに!』

「けにんぐ、とは、なんだ?」


 マハトの問いに、クロスは突然 "そのこと" に気付いて、ハッとした。

 タクトの言った単語に感じた違和感と、そこに捕らえられている賊。

 その引っ掛かりを、マハトが口にした疑問がきっかけとなって、全て解き明かされたような気分だ。


通名(とおりな)みたいな、もんだよ!」


 クロスは、マハトにかなり適当な説明をした。

 仮名(ケニング)とは、決して変えることが出来ない真名(コニング)の代わりに使う、表向きの名称であり、仮名(ケニング)を名乗っていると言った時点で、自分は真名(コニング)を持つと、暗に示唆してしまっているということになる。

 そして、真名(コニング)とは、祝福にも呪いにもなるために、その名を打ち明けるのはもちろん、持っていることを気軽に(だれ)にも話して良いものではない。

 とはいえ、タクトの場合は種族的な特徴故に、さほど気にもしてないのだろう。


『なんじゃ、このサウルスは仮名(ケニング)も知らぬのか?』


 と、サラッとその話を続けようとする。

 クロスは狼狽えた。

 元のタクトは強者で、真名(コニング)持ちであることをひけらかしたところで、通常ならばなんの問題もないのであろうが。

 今のタクトは "非常事態" に陥っていて、容易く他者(たしゃ)から害される危険が常に付きまとっている状況と言える。

 そこでこんな危機感のない発言をするのは、あまりに軽率と考えたからだ。


「そんなことはどうでもいいよっ! とにかくその賊から、ジェラートの行く先を聞き出さないと!」


 一方で、マハトはクロスが話をはぐらかそうとしていることに気づき、その態度を訝しみはしたが、自分もそんな些末な話題よりもそちらの(ほう)が気になる話でもあった。


「確かに、子供が攫われたなんて穏やかじゃないし、俺も救出に手を貸すのはやぶさかではないと思うが。しかし状況次第では、手伝いたくても手伝えないぞ」

『なぜじゃ? なにが気に食わぬ?』

「気に食わないって話じゃない。先刻クロスさんが言っていたが、飛ぶ敵を追うことは出来ない。そういう依頼なら、手の貸しようがないと言っている」

『このあんぽんたんのぼんくらサウルス! この儂が、貴様らの力量をはかれないようなウスノロと思うてかっ! サウルスは黙って、儂の指図に従っておれ!』

「俺は追える相手として、この賊を捕らえたが、先程のクロスさんの様子だと、おまえはそれが気に入らなかったようじゃないか。だが、空を飛ぶ敵を、飛べない俺にどうしろと言うんだ?」

『こンの…人間(フォルク)のサウルス風情(ふぜい)が…』

「ちょっ…ちょ…ちょっと!」


 言い争いになりかけるタクトとマハトの間に、今度はクロスが割って入った。


「焦ってるのは解るけど、マハさんの言い分のほうがもっともだろう?」

『なにを言うか! そちらの(ほう)が格下なのだから、言うことを聞くのが当たり前ではないかっ!』

「そこまでめちゃめちゃな……。てか、どう言ったところで、今は俺らに協力を仰がないと、手も足も出ないんだし、もうちょっとこう……」

『なんだと? 貴様一体、どういうつもりで "手も足も…" などという単語を口にした?!』


 ガンガンと問い詰められて、クロスはだんだん、言葉を選びながらの会話ができなくなってきた。


「や、だって、そちらサン、核化(フィルギナイズ)されてるし……」

『貴様、核化(フィルギナイズ)がなにか解っておるのかっ? さては、貴様も禁忌破りの仲間かっ!』

「な…仲間なんかじゃ無いしっ! 俺は古代魔法(フォニルガルズ)が記された、古文書(フォニルスキャル)の解読をしてただけで…っ!」

古代語(フォニルオロ)が読めない(やつ)らにも読めるようにしたのなら、同じ穴の狢ではないかっ!』


 しどろもどろのクロスに向かって、激昂したタクトは更に言い募った。


「自分が読み解いてただけで、他の(だれ)にも説明なんてしてないしっ! てか、こんなくだらない言い争いをしてる時間ナイんじゃないのっ!? ココにカービンが居るってコトは、ジェラートを攫ったのはルミギリスだってコトだろう? 早く手を打たないと、ジェラートはアルバーラの弟子の後継者抗争に巻き込まれちゃうんだぞっ!」

『そんなことは貴様に言われんでも、百も承知じゃっ! そもそも貴様ら人間(フォルク)如きの下等な輩が、禁忌をコソコソ嗅ぎ回って()っくりかえすから、こちらがこんな迷惑を(かぶ)るのではないかっ! このバカ野郎どもめっ!』

「あーもうっ! 俺は少なくとも先刻まで、神耶族(イルン)ってのは崇高で高潔だと思ってたのに、アンタの所為で、高慢ちきでめちゃめちゃってイメージになっちゃったじゃないかっ!」

『……てっ!』

「二人とも、聞いてくれ。俺には二人の言ってることがあまり理解出来ていないが、ジェラートが攫われて、状況が逼迫していることは判っている。俺は、あの子を助けに行くのに力を貸すことに同意するが、クロスさんは?」

「俺も、そこは同意する」


 タクトは一瞬黙ったあとに『てっ!』と、あの舌打ちに似た音を吐いた。

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