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イルン幻想譚  作者: RU
追われる少年
32/122

1:失業した男【2】

妖魔(モンスター)…じゃなさそうだな…」


 向かった先には、複数の生き物の気配がする。

 わざわざ(じゅつ)を使って探るまでもなく、樹木の合間からうじゃうじゃとした獣の姿が見て取れた。

 群れが意識を向けている(ほう)を伺うと、人影がある。

 革鎧と剣身が長めのバスタードソードといった身なりから察するに、戦士(フェディン)だ。


「かなりデッカい群れだが……集団で動く四足の獣……なら、頭目をツブせば崩れる、な…」


 声には出さずクロスは思考する。

 統率の取れた集団らしく、嗅覚に優れているであろう獣達なのに、近づいたクロスに気を散らしもしない。


「こりゃあ、ヒョロガリもやしとナメられたか…?」


 やはり声には出さずに思考し、クロスは自分が有利に(じゅつ)を使える場所に移動しようとした。


「……あっ!」


 二匹の若い獣が、戦士(フェディン)に向かって飛び掛かっていく。

 自分が足場を固める余裕ぐらいあるだろうと(たか)を括っていたクロスは、急な展開に狼狽えたが。

 身を翻した戦士(フェディン)は初手に踊りかかった一匹を薙ぎ(ハラ)い、続いた二匹目も一閃のもとに切り捨てる。

 的確で力強い見事な剣さばきにクロスは思わず足を()め、感嘆と安堵の吐息をもらした。

 しかし群れなした獣たちは次々と、(あいだ)を置かずに戦士(フェディン)に攻撃を掛けていく。

 応戦している戦士(フェディン)剣技(けんぎ)は目覚ましいものだったが、なにしろ獣の数が多過ぎる。

 このままでは、一人きりの戦士(フェディン)が窮するのは、考えるまでもないだろう。


 クロスは素早く(くう)(サークル)を描き出した。

 魔導士(セイドラー)(じゅつ)を行使するには、呪文(スペル)魔力(ガルドル)を込める必要がある。

 方法は、声に魔力(ガルドル)を乗せて唱える詠唱(チャント)、指先に魔力(ガルドル)を集めて(くう)に描く(サークル)、特殊な道具を用いて魔力(ガルドル)を描写する(ヘンジ)の三種だ。

 一つの呪文(スペル)を直接的に発動させる場合は、詠唱(チャント)(ほう)が圧倒的に早いが、複数の呪文(スペル)を組み合わせる場合は、魔導士(セイドラー)の技量や性格によって、詠唱(チャント)(サークル)のどちらかを選択することになる。

 そして魔導士(セイドラー)としての技量は、(だれ)にも引けを取らないと自負しているクロスは、(だれ)よりも素早く(サークル)を構築し、最速で発動させられる自信があった。


火炎(ファイア)追尾(トラッキング)…、着弾した時の爆発は狭い範囲で、威力は最大に…と…」


 顕現した炎は、即座に鳥の姿を模して樹木の間を縫い進む。

 現れた炎の鳥に毛皮を焼かれた獣たちは、恐れおののいて悲鳴を上げた。

 その群れの変化を見た頭目は、奥で座すのをやめると、即座に自身が走り出て、戦士(フェディン)に向って踊りかかって行く。


「え、うわ、しまった!」


 群れを威嚇しつつ奥のボスを討ち取れば、簡単に事態を収集できる。

 そう考えていたクロスは、ボスのこんな素早い動きはまるで想定していなかった。

 怖じけていた群れはボスの咆哮に勢いを取り戻し、四方から戦士(フェディン)に襲い掛かっていく。

 その数の多さに、戦士(フェディン)は動きを封じられている。

 群れを突き抜け戦士(フェディン)に飛び掛かって行くボスの胴体に、ボスを狙って放ったクロスの火の鳥が直撃した。


「アレじゃ、ち、(ちか)すぎだ…」


 着弾時の範囲は抑えたが、あんな至近距離では、戦士(フェディン)は完全に爆発の中心で巻き込まれてしまっただろう。

 爆散の後に、ボスが炎の塊となって黒煙(こくえん)を上げながら、ドッと地面に倒れる姿が見えた。

 最後の急襲に加担した獣たちも、爆発の余波でひどい火傷を負ったり、風圧で飛ばされて木の幹に叩きつけられたりしている。

 それらの被害に巻き込まれなかった獣たちは、ボスが陥落した様子に悲鳴を上げて、てんでに逃げ散って行く。

 獣の群れは撃退した。

 だがクロスは、助けるつもりがとんでもない結末となったショックで、その場に立ち竦んでいた。

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