表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イルン幻想譚  作者: RU
剣闘士の男
27/122

11:ドラゴン(3)

 四足で、ワニより胴回りが大きく、前脚の付け根にコウモリに似た大きな翼を持っている。

 ファルサーの足音に目を開き、起き上がったドラゴンは、ファルサーに向かってブレスを吐いた。

 少し温度の高い滝を浴びているような、強風の中に立たされているような、奇妙な感覚に全身が覆われる。

 アークに(じゅつ)を掛けてもらっていなければ、この一瞬で消し炭になったのかもしれない。

 ブレスを吹きつけられると、押し戻されるような圧迫感があるが、それでもしっかり足を踏みしめると、前に進む事が出来る。

 敵が息継ぎをしたところでファルサーは構えていたグラディウスを逆手に持ち替えて、振り上げた刃で一気にドラゴンの片目に剣を突き立てた。

 ドラゴンのウロコは、物理攻撃はもちろん魔法(ガルズ)も通さないと言われていて、王の鎧に使われていると聞いた事がある。

 そんな物に全身を覆われていては、魔剣と呼ばれるような高名な魔道具(ガルドラル)でなければ、ダメージを与えられるものでは無い。

 更に、もしそういった武器を持っていたとしても、こんな高ランクな生き物は、その生態によほど精通していなければ、急所を突くのは難しい。

 だがどんな生き物でも大概は顔面、特に眼や耳といった場所はガードが緩くなる。

 ファルサーは最初から、もしドラゴンに近付けるチャンスがあったならば、とにかく目玉を狙おうと決めていた。


 会心の一撃にドラゴンが悲鳴を上げる前に、ファルサーは敵の顔に乱暴に足を掛けて、突き立てたグラディウスを引き抜いた。


 暴れだし、尖った牙の生えた大きな口で噛みつかれる前に、俊敏な動きで相手から離れる。

 最高に調子がノッていた試合の時よりも、身体が軽快に動く気がする。

 これもアークの施してくれた(じゅつ)のおかげだろうか?

 片目を失ったドラゴンが怒り狂ってファルサーに突進してきた。

 それこそ正に、思う壺だとファルサーは思った。

 感情が高ぶって凶暴化すると、攻撃力は増すが、同時に隙も出来やすい。

 アークの(じゅつ)でほとんどブレスが効かない事が、ファルサーの有利に働いている。

 四足動物としては考えられない速さで迫ってきたドラゴンを、頭でイメージした通りの動きで身軽に躱し、ファルサーはグラディウスの()で、敵の頭部にかなり強烈な一撃を当てた。

 出来ればもう片方の目も潰していきたいところだが、流石にそこまでの隙は見せない。

 ドラゴンの巨体を飛び越えて、離れた位置で相手の次なる出方を身構えたところで、ふとファルサーは、奇妙な疑問を感じた。

 今、自分は易々とドラゴンを飛び越えた。

 自身の三倍はあろうかと思っていた、巨体をだ。

 四足動物としては素早いと思ったが、そもそもドラゴンの動きは小さなトカゲほどの俊敏さで、こちらの動きを封じようとブレスや尻尾で柱や壁を打ち壊している。

 それらの上げる砂煙や、頭上から降り注ぐ岩石などを、自分は軽快な足取りで今も易々と避けているのだ。

 ドラゴンに見舞った一撃の強さも、平素自分が闘っている時のそれとは比べ物にならないほど、全てのコンディションが最高の状態にある。

 最高…どころでは無い。

 俊足な四足動物と張り合って、闘技場(コロッセオ)同様の空間を駆けまわり、反撃をする隙も無く打ち殺されたはずの敵を、一方的に打ちのめしている。

 しかも息切れひとつしていない、なんて…。

 いくらアークの(じゅつ)の加護があったとしても、たかが一介の剣闘士(グラディエーター)が一個師団よりも戦力が上がる事など、あり得ない。

 これが、おかしいと言わずしてなんだというのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ