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イルン幻想譚  作者: RU
剣闘士の男
21/122

10:森の黄昏(2)

ヒトならざる者(ヴァリアント)は、種族の名称では無いよ」


 感心したようなファルサーに、アークは簡素な訂正をする。


「そうなんですか?」

ヒトならざる者(ヴァリアント)とは、人間(リオン)より優れた "なにか" の能力を持っている(もの)を総じて呼ぶ、呼称なのだそうだ」

「それじゃあまるで、人間(リオン)以外の人間(リオン)みたいな(もの)が、たくさんいるみたいに聞こえます」

「そう、言ったよ」

「そうなんですか?!」


 ファルサーの反応を予想していたらしいアークは、その驚きをさほど気にも止めずに話を続ける。


人間(リオン)の "常識" では、人間(リオン)こそが生物のヒエラルキーの頂点に立つ存在とされている。そこに君の身の上を加えると、国の王とは生き物の王を統べる王、即ち神の如き存在…になるんだろう」

「でも、あなたのような存在を知ってしまうと、人間(リオン)が生き物の王とは、とても思えません」

「うむ。そもそも、先程言った通り、世界にヒトガタをしている種族は、多様に存在しているのだよ。だが、その事を知らない人間(リオン)は、それらの種族をまとめてヒトならざる者(ヴァリアント)と称しているのだ」

人間(リオン)以外のヒトガタをした種族…なんて、信じがたいなぁ…。あなたの存在を知ったあとでも、やっぱりなんだか…夢みたいです」

「私も獣人族(セリアンスロウ)旅芸人(ジョングルール)に出会わなければ、知る事は無かったから、君がそう感じるのは当然だと思うよ」

「僕からすると、あなたの存在は "神にも等しい" って思えますけど」

「…だとしたら、神とは無力な存在だな…」


 アークの表情にはほとんど変化が無く、ファルサーにはその言葉の真意は解らなかった。


「なぜ、(そば)に誰も置かないんですか? あんな場所に独りでいたら、僕なら寂しいと感じます」

「考え(かた)の相違だろう。(そば)に誰かを置いて、常にその誰かを見送ってばかりいるほうが、私は気分が滅入る」


 返された答えの意味を理解するまでに、数秒掛かった。

 だが "見送る" と言う言葉が、相手との死別である事に気付いた瞬間、ファルサーは想像を絶する恐怖を感じた。

 同時に、先程の言葉の意味や、無表情に見えるアークの顔は、複雑な感情が入り混じった憂いの現れなのだろうか? と思う。


「申し訳ない質問をしてしまいました」

「君の常識が、全ての常識では無いと言っただろう」


 相変わらずアークは仏頂面で、声音もまたぶっきらぼうだった。

 しかしその時、不意にファルサーは気付いてしまった。

 そういうアークの無愛想な態度は、人を寄せ付けないための手段なのだと。

 アークがファルサーの無謀な使命に同行してきたのも、ここに至るまでの気遣いも、全部ただの気まぐれと思っていた。

 他に考えようがなかった。

 なぜならアークには、ファルサーの事を気にかけたり、面倒を見たりする義務も理由も何もなかったからだ。

 だがむしろ今までの小さくて細やかな気遣いこそがアークの真実で、傲慢で高飛車な態度のほうが仮面に過ぎないのだと気付いたら、ファルサーは無性にアークの事が知りたいと思った。


「どうして町の酒場では、あなたの事を "隠者のビショップ" と呼んでいたんでしょう?」

「私がちゃんと名乗らないからだろう。通名(とおりな)のようなものでも、名前が世間に知れ渡ると、面倒や厄介事にまきこまれる」

「でも僕には、アークと名乗ってくれたじゃないですか」

「それは仮名(ケニング)だ」

「じゃあ本当は、なんて言うんですか」


 ファルサーの質問に、アークは一瞬、妙な感覚に襲われた。

 頭痛と動悸。

 だがそれらの症状は "気がした" だけで、実際には頭痛も動悸もしていない。

 アークは、ファルサーの顔を見た。

 ずっと正面の炎を眺めながら応対していたアークに対して、ファルサーはこちらを見て話をしていたらしい。

 ほとんど真正面から、ファルサーの顔を見る形になった。

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