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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
121/122

12.死が二人を分かつまで

 窓から差し込む明るい日差しで、マハトは目を覚ました。

 昨夜は……食事の途中辺りから、記憶が無い。

 ぼんやりと周りを見回したマハトは、隣のベッドには使われた様子が無く、部屋に美貌の神耶族(イルン)の姿が見えず、それと同時に、風呂場から音がするのに気付いた。

 バンッと扉が開き、腰にタオルを巻いただけの格好でタクトが浴室から戻ってくる。


「ようやくお目覚めか? ならばおまえも風呂を使うが良い。体がしんどいようならば、出発は昼過ぎまでのばせるぞ」

「そんなことをする必要は無いし、出発もいつも通りで…う、わっ」


 起き上がってベッドから降りようとしたのだが、起きた体勢がガクッと崩れて、マハトはまたベッドに倒れ込んだ。

 まるで腰が抜けたようになっていて、足腰に力が入らない。


「なんだ、これは……身体(からだ)が変だ」

「おまえは、なにもかもが初めてだったようじゃな」

「なんのことだ? なにが初めてだ?」


 タクトは歩み寄ってくると、マハトの脇にペタリと座った。

 そして妙に真剣な目つきになって、仰向けになっているマハトに、顔を近づけてくる。


「マハト、昨夜、儂が教えた言葉を覚えておるか?」

「言葉? グラタン?」

「違う」

「パスタ? ミード?」

「見事に食べ物のことしか頭に無いとは……おまえは本当に残念サウルスじゃの」

「他になんかあったか…? あ、そういえば…」


 マハトが最初の一音を声に出すか出さないかのところで、タクトの人差し指で口を塞がれた。

 そして妙に真剣だったタクトの目つきが、完全に笑んだものに変わる。


「ふふふ、これで完璧に完了じゃの」


 タクトは軽やかにベッドから降りると、鼻歌を歌いながらドレッサーのほうへ移動していく。


「完璧…って、何のことだ?」

「おまえが儂の契金翼(エヴンハール)になるための、全ての儀式が完全に終了したと言ったのじゃ」

「はあ!? 俺はそんなことした覚えはないぞ!」

「おまえは、儂の真名(コニング)を覚えているではないか。良いか? その名は決して口にしてはならんぞ。絶対の秘密だ」

「おまえの名前なんか聞いた覚えは無い! おまえは俺を酔っ払わせて、いい加減なことを言ってるんだろう!」

「酒はおまえが進んで呑んだのだ、儂が無理に呑ませてはおらん」

「いや…、無理矢理では無かったが…。だが…っ」

「酔ったおまえを、儂が親切丁寧に介抱してやったのじゃ。すっかり気持ちが良くなったおまえが、儂に縋り付いてきたので、魄融術(ハミンガ)を交わしてやったのだぞ」

「いくら酔ってたって、おまえに頼みごとなんかするものか! なあ、おい、契金翼(エヴンハール)になったなんて、そんなの嘘だろう!?」

「嘘ではない。疑うならば、本気の力比べをしてやろう。儂は決して、おまえに勝てぬだろうなあ」


 契金翼(エヴンハール)になった(もの)能力値(ステータス)が、主人の神耶族(イルン)を上回るのは、クロスの様子を見て知っている。

 だがマハトは契金翼(エヴンハール)になんかされたくないのだ。

 なんとか言い返そうとして、昨夜の出来事を思い出そうとした。

 最初はふわふわしていて、すごく気分が良かった…ような気がする。

 だがそれからあとのことは、薄ぼんやりとしていて、具体的なことは何も思い出せない。

 どこでそんな、重要な契約をしてしまったのだろうか?


「やっぱり、酒は毒だ…」


 どうしても掘り起こせない記憶に狼狽えて、マハトは思わず呟いた。


「この絆は、儂かおまえ、どちらかが死ぬまで続く。おまえはもう、儂の契金翼(エヴンハール)なのだ。末永く仲良くしようではないか」

「嫌だ! こんなの絶対に詐欺だ!」


 マハトが何を言っても、鏡に映るタクトの顔は、悪魔のように笑っているだけだ。

 契金翼(エヴンハール)になんかなりたくなかった。

 だからといって、いきなりタクトを絞め殺すなんてことは、マハトには出来そうもない。

 すっぽりと抜け落ちてしまった記憶に対する不安と、この先ずっとこの面倒な神耶族(イルン)と同行しなければならない事実に、マハトは酷い頭痛に襲われたのだった。




*迷惑な同行者:おわり*

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