11.絆【1】
マハトは、修道院で身に付けた礼儀や教養によって、理性が働いている間は行儀正しく規律に従い、秩序や作法に則った行動を好む。
だがアルコールによって理性のタガが外れた今、タクトの言う通り、マハトが生まれ持った "貪欲" な本質が剥き出しになっていた。
自身の剣技に磨きをかけ、更なる高みを望むように。
たかが炙った肉ひとつとっても、味わいや焼き加減に拘りを持つように。
魂融術によって新たに知った快感と、それに浸る歓びを、理性の蕩けたマハトの心身は、タクトに向かって激しく要求してくる。
「修道院育ちのお嬢様とも思えぬ、はしたない振る舞いじゃの」
タクトは、契眷属を持たずに生きてきた神耶族である。
それはタクトが特別に孤独に強い性格だった…というよりは、タクトが特別に警戒心の強い性格だったからだろう。
契金翼と成る者は、厳しく選ばなければならない…と説いたのは、タクトの師匠である守護者だった。
しかしその一方で、独りで生きるのはとても寂しいことだとも言い、最良の契金翼を選ぶのは難しいかもしれないが、持つべきだとも言った。
同胞が連れている契眷属は、人間と人間の社会に紛れ込んでいる獣人族が多い。
だが神耶族の歴史の中でも最も波乱であった、人間との抗争の時代に思春期を過ごしたタクトは、人間に対してかなり偏った嫌悪感を持っていた。
あんな卑怯で狡猾な、言ってしまえば下等とも言うべき者たちは、その場で利用するだけならともかく、わざわざ手元に置きたいとは思わない。
もし自分が契金翼を選ぶならば、もっと優秀な妖精族や魔族、せいぜい心根の真っ直ぐな獣人族を迎えたい…と、常々考えていた。