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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
118/122

10.落とし穴【2】

「これは…なんだ?」


 目眩が止まった気がして目を開くと、そこに宿の天井はなかった。

 それどころか、自分の体は安定しているのに、周囲は眩しい光に包まれでもしているように真っ白で、上下も左右もない。


「いいから、こちらを見よ」


 タクトはマハトの顎に手を掛け、顔を自分へと向かせる。

 魂融術(シームル)は、神耶族(イルン)と対象者が、(せい)ある限り切ることの出来ない絆で、魂魄(ヴェッテイル)を紐づけする(じゅつ)だ。

 これにより、対象者は神耶族(イルン)能力値(ステータス)をその身に授かる。

 純粋に精神的(スピリチュアル)な存在である魂魄(ヴェッテイル)を繋ぐため、物理的(マテリアル)な世界から隔絶された場で(おこな)われるのだ。

 そして、二つの魂魄(ヴェッテイル)に絆が結ばれるまでの永遠にして一瞬のその時間、対象者は現世(うつしよ)では決して得ることの出来ない、得も言われる満足感を得る。


ぬし(・・)は、全くとんでもない傑物であるな」


 陶酔しているマハトが思い描く "最高の満足" を、タクトはてっきり "剣豪(ダインス)になり得た自分" なのだと思っていたが。

 他者の手を借りず、常に(おのれ)の技量を磨いて頂点を目指すマハトは、その目標を成し得た(のち)にもまた、新たな高みの目標を見つけ、それを目指して邁進していた。


「全く…、根っからの餓っつきだが…」


 タクトは思わず失笑したが、しかしそんなマハトをますます愛しく思った。

 ひたすら自身の資質を磨くことのみに注力し、なにかを達成する快感を貪る。

 マハトの真の望みは、大きな目標を成し遂げる達成感と、その向こうに現れるさらなる渇望を繰り返す、清廉潔白にして終わりなき欲望だった。

 タクトはこれこそ自分が選んだ(もの)だと、更なる悦びを感じる。


「さあ、これで儂らは一蓮托生だ。よろしく頼むぞ、マハト」


 タクトはマハトの唇に、改めて愛おしそうにキスをする。


「んあ…あぁ…っ!」

「おいおい、此処はもう現世(うつしよ)だぞ。そんな声を出しては、隣の部屋におかしな勘違いをされてしまうではないか」


 そんなことを言いながらも、タクトの顔にはその美貌に似合わない笑みが浮かんでいる。

 神耶族(イルン)は姿形は人間(リオン)に酷似しているが、実は無性の種族だ。

 故に、夫婦や(つがい)の概念を持たない。

 当然、房事を(おこな)うこともない。

 スキンシップの一つとして、肌を触れ合わせたりキスをしたりもするが、それはあくまで絆や情を確かめあう行為に過ぎないのだ。

 契眷属(フェストゥーカ)に足り得るかどうかの試金石として、房事に似た誘いをすることもあるが、それ以上の行為に及ぶかどうかは、神耶族(イルン)それぞれの個性による。

 タクトは、そういう意味では『試金石でも愉しむべき』と考えるタイプであった。


「そう急かすでない。楽しみはあとのほうが良い…」


 これからの展開を考えながら、タクトは笑っていた。

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