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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
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9.美食の駆け引き【1】

 タクトの性格を考えれば、部屋数が多く、革張りのソファや天蓋付きのベッド、豪華な調度品が揃った部屋を選びそうだな…と、マハトは考えていた。

 だが案内された客室は、広いけれど部屋数は一つだった。


「なぜ、わざわざテーブルセットが置いてあるんだ?」


 ベッドサイドの小さなテーブルの他に、大きなダイニングテーブルと四脚の椅子が置かれている。


「食事を部屋に運ばせるからじゃ。食事をするには、テーブルが必要であろ?」

「なるほど。…そうだな、たまにはこういう部屋も、良いかもしれんな」

「当然だ、この儂の選ぶ物に、ハズレは無いからな」


 タクトの威張り口調にも、素直に頷いてしまう。

 ダイニングテーブルとは別に布張りのソファもあり、その座り心地になかなか良いソファだと思ったところで、マハトは服がまだ湿ったままだったことを思い出す。

 こんな立派なソファを濡らしては申し訳ないと、慌てて立ち上がった。


「何を立ったり座ったりしておる。落ち着いて、風呂でも使ってきたらどうだ?」

「風呂?」

「そちらの奥に、風呂があるのだ。さっさと行け」


 タクトが指し示す(ほう)を見ると、部屋の奥に扉がある。

 開いてみれば、そこには脱衣所と洗面所、仕切の向こうにはたっぷりとお湯を張ったバスタブがあった。

 酒場とレストラン、それに宿屋を兼業にしている店は、大体がベッドが一つ置いてあるだけの簡素な部屋を複数並べてあるだけだ。

 こんなに豪華な設備を有している部屋を用意してある宿は、言葉通り "宿" として営業をしているところだろう。

 なんとなく誘われるままに部屋まで来てしまったが、そういえば一階のレストランも静かなものだった。

 きっと大商会のキャラバンのような(もの)を相手にしていて、護衛の冒険者(アドベンチャー)なども、行儀の良い(もの)ばかりを選んでいるのだろうとマハトは考えた。


「おい。俺はこういう設備を使ったことがない。どうしたらいいんだ?」

ぬし(・・)は、修道院育ちであったな」


 タクトはこちらに来ると、バスタブの手前にあるシャワーを指し示す。


「ここから湯が出る仕組みじゃ。服を脱いでここに立ち、コックをひねると湯が上から降ってくる。川で身を清めたことがあろ? それと同じ要領で体の汚れを落とせ。そして最後に、バスタブの湯にゆったり浸かって疲れを取るのじゃ」

「なるほど」


 タクトが去ったところで、マハトは脱衣所で服を脱ぐ。

 それにしても、値の張る部屋とはこういう設備も整えてあるのだな…と、改めて感心した。

 一晩過ごすだけなのだからと、安宿ばかり使っていたマハトは、そういえば部屋に置かれていたベッドも、柔らかそうな枕が置かれていたな…と思い出し、実用的と贅沢は両立する言葉なのかと思う。

 言われたとおりにコックをひねると、シャワーから勢いよく湯が注ぎ落ちてきた。

 マハトの体を伝った湯は、床の排水するための設備へと吸い込まれていく。

 そうして汚れを落とした(あと)に、バスタブに身を沈めると、予想外の解放感と心地よい脱力感が全身を包み込んだ。

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