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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
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8.緑の宝石【2】

 店内は落ち着いた雰囲気で、高価な品が見やすくディスプレイされている。

 宝飾品にさほど興味のないマハトでさえも目を引かれるような、高価な品が並んでいる。

 一見すると無防備に見えるが、この様子では店かもしくは商品棚に防犯のための魔道具(ガルドラル)が仕込んであるのだろう。

 だが、そうした道具の気配を感じさせない、品の良さだ。

 マハトは耳飾りをさっさと換金しようと、歩みを進めた。

 しかし、途中でふと足を止める。

 そこには、美しい緑色をした宝石が置かれていた。

 一瞬、タクトの瞳を思い浮かべたが、すぐさま「あいつの瞳は、もっと深い猫の目のようなグリーンだな」と思い直す。


「そちらの商品が、ご希望ですか?」

「いや、俺はこれを換金したいだけなんだ…」


 マハトが差し出した耳飾りを見て、店員は微笑んだ。


「査定をしている間、店内をごゆっくりごらんください」


 店員は耳飾りを奥へ持っていき、しばらくすると戻ってきた。

 マハトが変わらず先程の宝石を眺めていることに気付き、店員は声を掛けてくる。


「やはり、お気になりますか?」

「これは、なんという宝石ですか?」

光輝石(スヴァリン)ですよ」

「それは、気量計(ガルドメーター)に使う?」

「はい。同じものです」

「俺はてっきり、道具だと思っていたんだが、宝石なのか?」

「はい。光輝石(スヴァリン)は、魔力(ガルドル)に反応して色が変わります。こちらの翠光輝石(グロンスヴァリン)は、トレントが出現した森で見つかった一品でございます」


 店員が言うには、光輝石(スヴァリン)はより強い魔力(ガルドル)に晒されることで色が変わるため、人間(リオン)の暮らす町中で色が変わることはないらしい。

 下級とはいえ幻獣族(ファンタズマ)であるトレントの、その魔力(ガルドル)に比肩出来る人間(リオン)などいない…という(わけ)だ。


「だが、俺は旅をしていて、幻獣族(ファンタズマ)の討伐などにも参加することがある。そういう場合は、色が変わることがあるのか?」

「可能性はございます」


 マハトが困ったように眉を寄せると、店員はニッコリ笑い、カウンターへ案内した。


「よろしければ、こちらをご覧ください」


 店員が後ろの棚から取り出したのは、まさに猫の目のような深い緑色の美しい宝石だった。


「これは?」

翠玉(エメラルド)でございます。あちらの翠光輝石(グロンスヴァリン)にもまさる逸品で、色も美しく、傷も曇りもない高品質の品物ですよ」

「先刻の耳飾りと、この宝石を交換できるだろうか?」

「耳飾りは地金も上等なものですので、交換は十分可能です。ですがこのエメラルドを宝飾品に仕立てるなら、差額分の費用が掛かります。費用は、選ばれる金属やデザインで変わりますが、当店の職人は間違いのない品にお仕立て致しますよ」


 少し考えてから、マハトは口を開いた。


「いや、今は、このまま宝石だけを買わせてくれ」

「かしこまりました」


 店員は深々と頭を下げ、エメラルドが傷つかないように、小さなケースに入れてから手渡してくれた。


 店を出たマハトは、足早に通りを進む。

 店員に「宝飾品に仕立てる」ことを勧められた時に、マハトは一瞬、それを頼もうかと思った。

 だが、何に仕立てるかを考えたところで、思考が止まってしまったのだ。


 タクトは、確かにキラキラした宝飾品を常に身に着けている。

 だが、具体的にどんなものを? と考えると、全く覚えていない。

 宝飾品になど無頓着なマハトは、タクトの好みなど察することすら出来ないのだ。

 思い返せば、(くだん)の耳飾りを渡してきた時も「赤は似合わない」と言っていた。

 タクトの瞳に似た緑の宝石なら、似合うかもしれないと思ったが。

 それを指輪に仕立てたとして、タクトは喜ぶのだろうか?

 そう考えた途端に、マハトの気持ちはしぼんでしまった。


 更に自分は、耳飾りを換金するだけのつもりで店に入ったのに、予定以上に時間が掛かってしまった。

 タクトは既に買い物を終えて、イライラしながらマハトを探しているかもしれない。

 その考えが頭をよぎると、急激に焦る。

 ただ換金するだけのはずが、気になる宝石が目に止まり、挙げ句に宝石を買ってそれをどうするかまで悩む羽目になるとは、思いもしなかった。

 考えることが多すぎて、マハトは自分がパンクしそうだと感じた。

 結局、宝石をどうするかの結論も出ないまま、マハトはタクトと待ち合わせていた場所に戻った。

 するとタクトはまだ店内にいて、何事もなく合流出来たことだけが、幸いだった。

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