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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
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6.歴史【1】

 タクトと共に遺跡を巡るようになり、気付けばひと月が経とうとしていた。

 その間に、既に十箇所以上は回っただろうか?

 砂漠の周辺は、マハトが考える以上に遺跡の(かず)が多かった。

 もっとも、人間(リオン)が好んで踏み込む場所になかったので、遺跡の知名度がほぼなく、ウワサの口の端にのぼらなかったからかもしれないが。

 そして、その全ての遺跡がデュエナタンのものという(わけ)でもなかった。


 何箇所か回ったところで、マハトは地図にデュエナタンの禊鎧場(ネメトン)だったところだけに(しるし)を付けてみたが、等間隔だったり、規則性があったりすることもなく、パターンを見出して次なる場所を求めることは出来そうになかった。

 人間(リオン)の生活圏に入っている場所は、民間信仰などと同化して手厚く祀られていることが多いが、それは禊鎧場(ネメトン)に限ったところだけではなく、別の文明のなんらかの遺跡でもまま見られたため、これもまた意味はないのだろう。

 結局、今までのところこれといってマハトの血縁を知る(すべ)はなにもみつからないままだ。


「ここは、ハズレじゃな」


 遺跡が見えてきた辺りで、タクトが言った。


「なんだ、とうとう儀式をする前に、当たりとハズレを見分けられるようになったのか?」

「違う。コレはデュエナタンではなく、アルレミの遺跡じゃから、そもそも貴様と全く無関係なのだ」


 訪れた遺跡は、以前、ジェラートを取り戻しに訪れた場所に似ている。

 町並みがあり、遺跡というよりは廃墟といった佇まいだ。

 タクトの指摘を踏まえてみると、確かに今まで洗水の儀式を授けてくれた遺跡は、禊鎧場(ネメトン)だけがポツンとあるか、もしくは周囲をなんらかの神殿のような柱で囲まれていたりした。

 つまり、禊鎧場(ネメトン)であるならば、そこに人間(リオン)の生活感があるはずがない…という(わけ)だ。


「そう言われると、確かにちょっと趣が違うな。ところでアルレミというのは、文明の名称か?」

「うむ。砂漠を中心に栄えた文明なので、この辺りでは混在しておるのじゃろ」


 なるほどと頷きつつも、マハトは腑に落ちない気持ちにもなった。

 こうしてタクトが気まぐれに語る話は、人間(リオン)の歴史として授業で聞いたものと食い違いがあるように思う。

 そもそも歴史にさほどの思い入れもなく、授業を熱心に聞いた(わけ)でもないので、自身の記憶とタクトの言う話と食い違いがあるのは当然だろうと…最初のうちは思っていた。

 だが、アルレミという名称は、それが何であれ、聞いたことがない。

 むしろ、指導をしていた教諭すらも知らない、人間(リオン)が忘れてしまった歴史を、タクトは知っているのかもしれない。


「俺は、そんな名の文明は知らない」

「時間の経過と共に "過去の遺物" という言葉で、一緒くたにしてしまうのは、人間(リオン)の常套手段であろ」

「なぜこんな砂漠に暮らしていたんだろう?」

「当時はここまで乾燥しておらなんだ。とはいえ、人間(リオン)に住みよい土地と言うほどでもなかっただろうがな。アルレミとデュエナタンは不仲で、度々境界争いをしておったのだ」

「以前もそんな話をしていたな」

人間(リオン)は顔色やら所属やらで、細かく争っているではないか。昔も今も、関係なかろ。当時のデュエナタンは(イルダナハ)の託宣によって、カミのチカラを借りていたから、アルレミは色々と劣勢ではあったじゃろ」

「じゃあ、魔素(ガンド)の濃度が高く、土地が不毛になっているのは、そもそも人間(リオン)同士の戦いが原因なのか?」

「当然だろうが」


 他人事のように…と言いかけて、実際にタクトにとって人間(リオン)同士の争いなど、他人事以外のなにものでもないと気付く。

 それどころか、自分自身が歴史に興味がなく、タクトの語る話題にのぼった時には疑問を抱き質問はすれど、その答えが「さほどの興味も持たなかったのでわからん」と言われた時は、自身でそれ以上を調べてみようとも思わない。


「おい、用事もない遺跡に立ち寄る必要もあるまいて。次を目指すぞ」

「そうだな。こうも魔気(ガルドレート)の強い場所に長居をしても、妖魔(モンスター)の標的にされるばかりだ」


 砂漠の砂に埋れる町に背を向け、二人は来た道を戻った。

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