5.貪欲【1】
結局その日は、タクトに案内されて遺跡を二つほど回り、日が暮れてきたところで適当な町へ入った。
そして前日と同じような宿に泊まったのだが、そこの食事は前日の宿ほど美味くなかった。
するとタクトは、あれこれ自分で注文したくせに、最初の一口でフォークを放り出した。
食事を終いにしたタクトは、手持ち無沙汰といった様子で、つまらなそうにエールを傾けている。
そもそも口達者ではないし、沈黙を美徳とする修道院の食卓で育った所為もあり、マハトは食事中にあれこれ話す習慣が無い。
しかし不機嫌な顔で、正面からじっと見られ続けるのはさすがに居心地が悪い。
マハトは黙り続けるのに耐えきれず、自ら口を開いた。
「おまえはそうやって、食べない時は全く食べないようだが、それで平気なのか?」
「平気だからこそ、食わぬに決まっておろう」
「そうか…。全然食べずとも平気なのか?」
「食に興味を持たぬ同胞は、全く食わない偏屈もおるようだな」
飲まず食わずを偏屈と呼ぶのなら、そうやって好き放題に食い散らかしている者はなんと呼ぶのか、聞きたいような気もしたがやめておいた。
「それで、問題はないのか?」
「寝食が全く不要…というわけでは無いが、今日程度の運動量では腹ごなしにもならん。儂の誘いを受ければ、おまえも同じになれるのだぞ? そうすれば、こんなゴミクズのような食事を、我慢して食わんでも済む」
「ゴミと呼ぶほど不味くは無い」
「では、塵芥か? なんにせよ、そんな言いわけで体裁を繕わんでもいいだろう?」
「俺が? なんの体裁を繕っていると?」
「貴様、人一倍の美食家ではないか」
「そんなことがあるか」
「はは、無自覚か。さすがサウルスだな」
マハトは食べるのをやめて、タクトを見た。
「自覚ってなんだ?」
「おまえは不味い物より美味い物のほうが好きだ。だがそれを自覚してない。だから無自覚だと言ったのだ」
「誰だって不味いよりは美味いほうが好きだろう。そんな当然のことを、わざわざ言う必要があるか」
「わざわざ言うほどの食い道楽だから、指摘しておるのだ」
マハトは食べ物に拘って、あれこれ言ったことなどないし、そういう態度をとった覚えも無いのに、知り合って日も浅いタクトに解ったふうな顔をされて、不愉快だった。
「おまえに何が解るというんだ」
「傍から見たほうが、解ることもあるものぞ。食い意地サウルス」
修道院で躾けられた食事の礼儀作法を守ることより、タクトの前で食べることのほうが嫌になり、その晩の食事は中途で止めてしまった。
部屋に戻っても何も話したくなくて、さっさとベッドに入って毛布を被る。
「次の遺跡は、未だに詣でる者がおるらしい。もっとも、デュエナタンの遺跡に民間信仰が混ざっておるようだがな。誰かがいたら面倒だが、草むしりの手間はなかろうよ」
タクトが何か言っていたが、それにも返事はしなかった。