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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
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5.貪欲【1】

 結局その日は、タクトに案内されて遺跡を二つほど回り、日が暮れてきたところで適当な町へ入った。

 そして前日と同じような宿に泊まったのだが、そこの食事は前日の宿ほど美味くなかった。

 するとタクトは、あれこれ自分で注文したくせに、最初の一口でフォークを放り出した。

 食事を終いにしたタクトは、手持ち無沙汰といった様子で、つまらなそうにエールを傾けている。

 そもそも口達者ではないし、沈黙を美徳とする修道院の食卓で育った所為もあり、マハトは食事中にあれこれ話す習慣が無い。

 しかし不機嫌な顔で、正面からじっと見られ続けるのはさすがに居心地が悪い。

 マハトは黙り続けるのに耐えきれず、自ら口を開いた。


「おまえはそうやって、食べない時は全く食べないようだが、それで平気なのか?」

「平気だからこそ、食わぬに決まっておろう」

「そうか…。全然食べずとも平気なのか?」

「食に興味を持たぬ同胞は、全く食わない偏屈もおるようだな」


 飲まず食わずを偏屈と呼ぶのなら、そうやって好き放題に食い散らかしている(もの)はなんと呼ぶのか、聞きたいような気もしたがやめておいた。


「それで、問題はないのか?」

「寝食が全く不要…というわけでは無いが、今日程度の運動量では腹ごなしにもならん。儂の誘いを受ければ、おまえも同じになれるのだぞ? そうすれば、こんなゴミクズのような食事を、我慢して食わんでも済む」

「ゴミと呼ぶほど不味くは無い」

「では、塵芥(ちりあくた)か? なんにせよ、そんな言いわけで体裁を繕わんでもいいだろう?」

「俺が? なんの体裁を繕っていると?」

「貴様、人一倍の美食家ではないか」

「そんなことがあるか」

「はは、無自覚か。さすがサウルスだな」


 マハトは食べるのをやめて、タクトを見た。


「自覚ってなんだ?」

「おまえは不味い物より美味い物のほうが好きだ。だがそれを自覚してない。だから無自覚だと言ったのだ」

(だれ)だって不味いよりは美味いほうが好きだろう。そんな当然のことを、わざわざ言う必要があるか」

「わざわざ言うほどの食い道楽だから、指摘しておるのだ」


 マハトは食べ物に拘って、あれこれ言ったことなどないし、そういう態度をとった覚えも無いのに、知り合って日も浅いタクトに解ったふうな顔をされて、不愉快だった。


「おまえに何が解るというんだ」

(はた)から見たほうが、解ることもあるものぞ。食い意地サウルス」


 修道院で躾けられた食事の礼儀作法を守ることより、タクトの前で食べることのほうが嫌になり、その晩の食事は中途で止めてしまった。

 部屋に戻っても何も話したくなくて、さっさとベッドに入って毛布を被る。


「次の遺跡は、未だに詣でる(もの)がおるらしい。もっとも、デュエナタンの遺跡に民間信仰が混ざっておるようだがな。(だれ)かがいたら面倒だが、草むしりの手間はなかろうよ」


 タクトが何か言っていたが、それにも返事はしなかった。

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