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イルン幻想譚  作者: RU
ep.3:迷惑な同行者
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4.デュエナタン【1】

 マハトは、その生真面目な性格故に、修行の旅に出た(あと)も、修道院での生活リズムをあまり崩していない。

 流石に深夜や早暁の祈りまでも実行しているわけでは無いが、朝は暗い時間に目を覚まし、ロードワークやストレッチをすることを習慣にしていた。

 一方でタクトは、ここ数日一緒に部屋で寝起きしているものの、起床時間はまちまち、日課らしきものといえば、ドレッサーの前で長い髪を入念に梳かすことと、朝夕の食事にひたすらこだわるくらいだった。


「この近隣ではふたつばかり向こうの丘の上に、一つ遺跡があったはずだ」


 今朝は朝食の席で、そう言ってきた。

 タクトはマハトを、健脚だと言って褒めた。

 日々、剣客(レイフ)としての体作りに注力しているマハトは、当然体力にも自信があったし、一昨日の晩は本気でタクトを振り切るために策を凝らし、昼夜を徹して道なき道を強行軍で突っ切った。

 だからこそ昨晩、宿にタクトが現れた時にあれほど驚いたのだ。

 神耶族(イルン)がどれほど卓越した能力を持っていても、遺跡でマハトの体が宙に浮いた時に驚いていた様子から、流石に空は飛べないらしいと考え、ならば姿を完全に見失えば諦めるかと思ったのだ。


 だが宿を出て一緒に歩き始めたところで、自分の努力はすべて無駄だったのだとマハトは痛感した。

 ドレス姿ではないが、それでもタクトの服装は高貴な姫の旅装のような、上品な婦人用のボトムスと踵の高いブーツ、ふうわりとした生地で出来たヒラヒラの上着なのだ。

 どう見ても悪路を歩くには適さない服装にもかかわらず、タクトはまるで気にする様子もなく、鼻歌交じりでマハトの横を悠然と歩いている。

 そして、そこに至ってようやくマハトは、タクトの容姿というか身なりや外見的特徴を詳細に観察した。


 そんな上流婦人のような服装をしていても、タクトの容姿全てが繊細で女性的というわけでは無い。

 恰幅のいい男が、無理に女性用のドレスを着ているのとも違い、タクトの様子はタクトの美貌や体格にピッタリとマッチしている。

 骨格もしっかりしているし、肩幅や筋肉もあるので、別に華奢では無いのだが、たっぷりとしたドレープやヒラヒラしたレースなどで、それらの "男らしい" 部分が覆い隠されているというか、目立たないのだ。

 故に際立つのはタクトの美貌と、それらを縁取る宝飾品で、パッと見た目は美麗な淑女か美少女のようになっている。

 普通ならそんな格好で、かなり早足で歩くマハトに着いてくるのは至難の業だろうが、タクトは神耶族(イルン)故の能力の高さで、なんなく同じ速度で歩いているのだろう。


 そんな二人だったから、普通なら半日掛かるほどの道程を、二時間ほどでたどり着いてしまった。

 街道から離れたこの場所は、人の往来がほとんどないらしく、タクトに言われなければ禊鎧場(ネメトン)のサークルがどこにあるかもわからないほど、雑草や石塊に埋もれていた。


「なんと。柱すら無いではないか。このままでは使い物にならぬな。マハト、とりあえず雑草を刈れ。まずはサークルの位置を確かめるのだ」


 そんなことを言って、自分はそこでふんぞり返って指図をするだけなのだろうな…と思いながら、マハトが大きめの石から避け始めると、意外にもタクトは身を屈めると、石を放り出したり、(じゅつ)を掛けて草を排除したりしている。

 そうなるとマハトは、あんなに手入れをしてある爪が、汚れたり割れたりしてしまうんじゃなかろうかと、心配になってきたりした。


「おおっ! あったぞっ!」


 しばらく掃除と草むしりに従事ていたのだが、不意にタクトが嬉しそうな叫びを上げた。

 マハトが振り返ると、そこには二メートルほどもあろうかと思われる、苔むした石柱らしき物が横たわっていた。

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