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イルン幻想譚  作者: RU
剣闘士の男
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5:アークの憂鬱(3)

 世界中を見て回れば、同じ種族に出会えるのかもしれない。

 幾度もそう考えた。

 だが実行には移せなかった。

 自分と同じ種族が、この世界に存在するのかどうかも解らない。

 親しんだ人間(リオン)を失った時の喪失感は、いつも心に刺さった。

 この孤独を埋めてくれる誰かを夢見て探しに行き、誰も見つけられなかったら?

 いつまで続くのか解らない孤独を埋められる(もの)が、この世に誰一人居ないとしたら?

 それを冷静に受け止められるとは、とても思えなかった。

 取り残されて孤独になる事に怯え、それ故に他者と懇意になるのを避けるようになった。

 特定の誰かと穏やかで幸せな時を過ごしてしまったら、その()に訪れる孤独と寂寥感を癒す(すべ)など考えもつかない。

 そしてただひたすらその恐怖を避けるため、長い長い年月を独りで過ごしている。

 独りで居るだけなら、そのうち痛みもぼやけてきて、どんなに長い時の流れも、やがて一瞬と区別がつかなくなる。

 そこまでして自分ひとりの居場所を作ってきたのに、どうして扉の向こうに居る、十把一絡げの、ただ一瞬の行きずりの人物を、こんなに気に掛けているのか?


 幻獣族(ファンタズマ)とは、ヒトガタをしておらず、更に強大な能力を備え持った生命の総称である。

 能力の大きさによって上級・中級・下級と大まかな分類はされ、人間(リオン)にとっては生命を脅かす危険な天敵の一つと言えた。

 ドラゴンは最上級とも言われる幻獣族(ファンタズマ)で、その能力値(ステータス)人間(リオン)から見たら生ける天災そのものと言えた。

 そもそもドラゴンの身体能力やら頑健さやらを挙げ連ねる前に、その身に備わった魔力(ガルドル)の大きさの前に、人間(リオン)如きは近づく事すらままならない。

 好物は鉱石で、特に精錬された物を好む傾向があった。

 人間(リオン)の文明が進み、金属加工の技術が上がったのは、ドラゴンにしてみれば美味しい餌場が提供されたような状態だったと言える。

 しかもドラゴンの体は、人間(リオン)の軍隊がどれほど頑張ったところで、ウロコ一枚剥がす事も出来ない。


 一方で、湖の島からは非常に稀で価値の高い、特殊な金属が産出される。

 この地の利がさほども無いような山間の湖のほとりに、わざわざ人間(リオン)が村を作った理由はそれだった。

 近隣諸国はこぞって此処から産出される鉱石を買い求め、ドラゴンが現れる以前は各国が採掘の主導権を争ってしのぎを削っていたほどだ。

 争いの火種になりかねないその金属の存在は、同時に各国が切磋琢磨して技術や文明を進歩させる原動力にもなった。

 (くだん)の金属以外の鉱物の精錬技術も進み、この周辺の鉱物加工技術はどんどん進んだ。

 そうなれば、当然ドラゴンが好みの匂いを嗅ぎつけてやってくる。

 結果的に、人間(リオン)達はなるべくしてドラゴンを呼び寄せてしまったのだ。


 (くだん)の金属が特にお気に召したらしいドラゴンは、当然といった様子で坑道に棲み着いた。

 そうなってしまうと、どれほど人間(リオン)達が奮戦したところで、ドラゴンを討伐どころか、追い払う事すら出来るはずも無い。

 金属に固執した幾つかの国は、ドラゴン討伐に国力を傾けすぎて他国からの侵略を許してしまい、国の存在そのものが歴史から消えていった。

 一方のドラゴンは、より好ましい食料がある坑道から出てくる事は無い。

 結果として "触らぬ神に祟りなし" の構図が出来上がり、更に人間(リオン)は、いつしか最初の理由であった "稀少な金属" の存在さえも忘れた。

 そしてドラゴンの存在は、それが冒険者(アドベンチャー)であれ国家元首であれ、よほどの功名心に駆られた愚か(もの)だけが挑む以外には、誰も触れなくなったのだ。

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