バーチャルアバター
今より時代が進みメタバースや、VRが一般にも浸透した少し先の未来。女癖の悪い男がいた。彼女をとっかえひっかえしたり、平然と浮気して、ばれると、逆切れする始末。
「おいお前、いい加減女性を大事にしないと大変なことになるぞ」
親友の忠告も聞かず男は、女遊びに浸る。だがあるときから、人がかわったように、女性に興味をもたなくなった。
「お前の容姿と性格なら、普通むこうからよってくるものだろうに、どうしてだ?」
親友は尋ねる。
「ああ、俺はこういうのにはまると思っていなかったんだが、ある女性にはまっていてさ……」
「女性って、どういう」
「アバターをつかったバーチャルタレントだよ、動画配信してる」
とうとう女性に飽きて気がふれたか、親友はそう思ったが、たしかにオタク系には人気のコンテンツだ。現在も2次元をベースにしたアバター、キャラクターをベースにした動画や配信コンテンツが流行しているが、この時代も同じく、今度は3次元を利用したものや、アニメ調でもなくよりリアルな3DCGを駆使した女性アバターも人気だった。男がはまっているのは、女性アバターだった。
親友は、男の様子を心配していたが、だが日に日に彼の性格はより女性にやさしいものになっていき、徐々に穏やかになっていき、新しい彼女をつくり、大事にしていったという。
(まあ、あいつがいいならいいか、それに、女性を思いやるようになってよかった)
そう思っていたがあるときから妙に痩せていき、目の下にクマを作るようになっていった。どうしたんだ?と尋ねると
「ああ、あのアバターの少女が延々配信しててさ、追っていたら、どうもしんどくて」
「どうしてそこまで執着する?」
「どうしてだろう……」
といいつつ、男はしぶしぶ、真実を話始めた。
「なんか、初恋の女性に似ているんだ」
聞くと彼は昔から自身満々な性格だったが、中学生ごろ、年上の近所のお姉さんに恋をしていたが、どんなにうまくアプローチして、どんなに下準備をして、どんなにプレゼントをしても振り向いてもらえず、最終的にはしつこすぎるという理由で振られたらしい。
「お前にそんな過去があったのか」
同情する親友、親友といえど、女癖については嫌な感情をもっていただけに、そのことにはあまりふれない事にしたのだった。
翌日。休日で男は暇を持て余していたので、生放送をみていた。しかし今日の配信は12時間もぶっつづけだ。深夜まで放送をみていた男も、だんだん意識がもうろうとしてきた。そして、徐々に幻覚のようなものを見始める。
花畑で、初恋の彼女と遊んでいる映像。しかし二人とも奇妙な薬を飲んでいる。いよいよ不眠で末期症状かとおもったら、自分の手には、確かに見覚えのない薬が握られていた。
「はっ!!」
周囲を見渡すと、そこには怪しい薬がこれでもかと散らばっている。
「どうしたの?」
モニターから声がする。
「どうしたのって……なんで」
「なんでって、ここは私とあなた二人だけの部屋でしょう?」
そうだ。記憶の辻褄をあわせれば、少し前に、ある日仲良くなった女に"面白いタレントがいる"といってここの鍵と放送を教えてもらった。それから、それからずっと自分は……おかしくなっていた?
「さあのんで」
「な?なんで……?」
「なんで?って、もしかして」
「あ、ダメよー、今日"暗示"ちゃんとかけてないじゃない」
モニターの向こうから、別の女の声が響く。
「でも今日は、サプライズの日でしょ?」
また別の女の声がいった。しかし、どれも妙に聞きなじみのある声だった。その周囲で、幾人もの女の声が響く。
「キャハハハ、サプラーイズ!!」
しかしよく見れば見るほど、このアバターのあちこちにも見覚えやなじみがある
、なぜ今まで気づかなかっただろう。まるでモンタージュのように、この女は……普通の女か?男は顔面蒼白になりながら、女たちに尋ねる。
「どういう事だ?」
「あんた、“私たち”のアバターが初恋の女だと思っているでしょう?振られたって、でもそんな女初めからいないわ、あんたは"無敗の男"かわいそうだから、私たちは強力して、あんたに”敗北”をプレゼントしようとしているの、私たちは大勢でひとつのアバターを使っていた、私たちは16人で一人、あんたがこれまで無碍にしてきた女たちよ、あんたが“好き”だといった体の部位をかきあつめて、アバターをつくりあなたに暗示をかけていたの、あなたに復讐をするためにね!」
「ピンポーン」
後ろでチャイムがなる。男の一人暮らし。いちいち鍵を閉めるはずもない。
「しまっ」
そういいかけ、玄関に向かった瞬間、扉が開き、大勢の女が凶器をもって玄関からなだれ込んできた。翌日、男は無残な姿で発見される。大勢の女に体中をずたずたに引き裂かれていたのだった。
「サプラーイズ!!」
画面には、男がこれまでつきあってきた。"初恋の女性"のアバターの特徴をもつ女性が幾人も包丁をもって、狂気乱舞している。当然視聴者など他にいなかった。