表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/29

六章 連鎖

「レンー! あんた、お姉ちゃんとけけけ結婚したんですってぇ!?」


 ぶっ!? と昼頃、満席に近い状態の店が噴射物で汚れた。

 突如、あわてて走ってきたリリアストがそう叫んだのだ。


「……リリアストちゃん、落ち着きましょう」

「ま、待てったらリリー! お、おう、レン!」

「どうも、ミリー」

「ミリー!? お、お姉ちゃん……! まさか、ホントに……!?」

「結婚じゃねーから! 家族になっただけだから!」

「結婚すっ飛ばして家族に!?」


 こりゃ俺が出張った方が早いな。


「リリアストちゃん。ちょっと」


 ほぼ全員のオーダーは終わっている。調理済みだ。……リリアストを厨房の奥に呼ぶ。

 過去などを様々なことをかいつまんで、しかし的確に話し、事情を説明した。奥に呼んだのは、こんな話を誰にでもしたいわけじゃないからだ。


「なるほどねえ。……いいわ、レン。あたしも家族になってあげる」

「……よろしいのですか?」

「いいわよ。あんた、男だけど嫌いじゃないし。このあたしが、男を嫌いになれないのって珍しいのよ? 男ってのは、ガサツで、大声出すし、落ち着きがなくて……でも、あんたならぴったりよ! あたしのお兄ちゃんに!」

「お、お兄ちゃん?」

「そ! 優しくてー、気が利いてー、嫌味ない程度にイケメンでー、何でもできるお兄ちゃん!」

「そんな都合のいい人物はいないと思いますが……」

「あんた、該当してるわよ」


 ……俺が?

 優しくて? 気が利いてて? 嫌味ない程度にイケメン? 何でもできる?


 いやいやいやいや! そんなの肯定したら、呆れるほどの自惚れ屋だ!


「買い被りすぎです」

「いいのよ。つーわけで、よろしくね! お兄ちゃん! リリーって呼んでいいからね」


 こうして、妹が増えた。





「あっはははは! 家族っスか! そりゃ良かったっスね!」


 バシバシと背中を叩いて、フウカは大笑いしていた。

 朝の稽古。俺はもう、免許皆伝らしく、俺はフウカの自主練習の相手になっていた。

 俺は全力。向こうは五割。それでようやく釣り合いが取れる。


「にしたって、ホント筋がいいっス! さっきの、六割っスよ?」

「おお……」

「逆立ちの練習とかちゃんとしてるみたいっスね。レン大将、動きがよくなってるっス。手とか使ってバランスが取れるようになると、空中でも動けるっスからね」

「ええ。というか、気力使ったら、かなり高くジャンプできて驚きました」


 十メートルは飛んだか。寒気がするほど高く跳んだのだが、足を強化しているおかげか、何事もなく着地できた。

 走ってみても、これは漫画とかで見る速度だ。体感だが、自動二輪の八十キロくらいは風を感じた。

 ああ、そういえば、俺の趣味はバイクだ。正確には、整備ではなく運転する方。メンテとかは知り合いの人がいるので、頼んでいた。

 折を見て大型免許を取りに行こうと思っていたのだが……まぁそれはいいか。


「レン大将は足がいいっスね。あっしは速度と技術、それと術でカバーしてるっスけど、レン大将は純粋な体術とチャクラで戦えるっスよ。例えば、チャクラを外的エネルギーにして敵にぶつけるとか」

「どうやるんですか?」

「いいっスか、あっしのチャクラの流れを良く見て、再現してくださいっス。ゆっくりやるんで」


 すぅ、とフウカは印を結ぶ。

 手にチャクラを集め、手のひらからそれを出現させ、回転させて留めている。渦を生んでいるのだ。


「せっ!」


 すかさずそこに、チャクラを纏った足で蹴りを放つ。そのチャクラの塊はまっすぐすっ飛んで木を一撃で吹っ飛ばした。……凄まじい威力だ。


「やってみるっスよ」

「はい」


 手をかざし、回転させるイメージ。


「ッらぁ!」


 鋭い蹴りはエネルギーの塊を勢いよくふっ飛ばし、その塊は地面に痕を残して目の前の巨木にぶつかる。

 ぎぎぎぎ、とその木は倒れ、鳥が逃げ惑うように空へ逃げた。


「……加減しないと、ダメっスよ」

「す、すみません……」


 思わず本気でやってしまった。


「慣れれば、足からも放出できるようになるっスよ。で、まぁ……ホントは教えちゃダメなんスけど、分身も教えておくっスよ……。裂!」


 チャクラの流れは全身にめぐらせて、それを放出するイメージ。チャクラの塊で人を作るのか。フウカの分身はフウカと同じしぐさをしている。


「……はっ!」


 自分の姿を模写して、実体化させる。全身から気力を発さなければならないので、予想以上の疲労が俺を襲う。


「ああ、姿形だけでいいんっスよ。それじゃ実体を作る影分身になっちゃうっス」

「チャクラの塊を作るんじゃないんですか?」

「表面だけ作ればいいんスよ。……まぁ影分身も便利っスけどね。それ、別の動きさせれます?」


 動かしてみる。

 前後左右の分身に、別々にポーズを取らせて見る。


「おお、できるじゃないっスか! 上手く使いこなせれば、分身を橋にして崖を渡るなんて芸当もできるっスよ!」

「……なるほど」


 分身を戻す。発動したチャクラは戻ってこないか。疲労感が僅かに滲むが、十秒程度で気力が体を巡り、調子を整えてくれる。


「ふぃー。いいっスか? 分身はいざって時以外、使っちゃダメっス」

「なぜですか?」

「その術は、忍者の中でもとりわけランクの高い秘術として扱われてるっス。……レン大将ならいいか。あっしは高名な忍者の一族――玄魔一族の直系、で理解できるっスか?」

「つまり、フウカちゃんは玄魔フウカ。名家の直系というわけですね。恐らく、貴女は忍を抜けたのでは? 最初の時にクナイを向けたのは、俺を追っ手だと勘違いしていたのでしょう」

「頭、よく回るっスね。そう、あっしは忍であることをやめたっス。……あっしは、恋愛したいんっスよ。決められてる婚約者となんか、肉体関係持ちたくなかった。幸い、一人で生きていける強さは身につけていたっス。……だから、追っ手を皆殺しにして、あっしはここに流れ着いた」


 くるり、とその場で一回転するフウカ。


「この装束だと、すぐにわかるっしょ、忍者だって。敵を見つけやすかったんっス。……レン大将、後生です。このことは、秘密にして頂けませんか?」

「元より、吹聴する気などございません。……俺は、フウカ。貴女と親しくなっているって、勝手に思ってる。だから、俺は貴女を守りたい」

「……ホント、いい人っスね」


 穏やかな笑みを、フウカは浮かべた。


「ねぇ、ついでだから、あっしとも契り、結びませんか? 対等な親友として、命を賭けれる友として」


 スッと立てた小指をこちらに向ける。俺も、自分の小指を彼女の小さな指に絡めた。


「約束です。俺達は対等で、命を賭けて……守ります。フウカ、貴女を」

「はい。あっしも、レン大将……いや、レンを守るっスよ。守りたいって、こう言う気持ちだったんっスね」


 背中を預けられる、親友。

 頼もしい味方が、増えた。





「えー! 皆さんずるいですぅ!」


 舌っ足らずな声を出して、マルグリッドは糸目を見開き、頬っぺたを膨らませた。

 テーブルには、『怜悧の剣』のメンバーが揃っていた。


「何がずりーんだよ、マルグリッド」

「わたしも仲良くなりたいですよぅ、レンさんと!」

「モテモテじゃん、レン!」


 嬉しそうなミリー。リリーも微笑んでいた。何がおかしいのか、フウカもくっくっくと嫌な笑いをこぼしている。

 フウカの前にきつねうどんを置きながら、俺は苦笑いを返した。


「仲良く、ですか」

「はい! 皆さんだけ、レンさんのことをいっぱい知ってて、なんだか仲間はずれみたいです~」


 どうやら、仲間はずれなのがいやみたいだな。俺は別にどうでもいいけど。

 とはいえ、それは仕方ないだろう。

 マルグリッドは朝食をよく食べにきてくれるお客さん、としか。

 仕事を世話してくれて、毎日、ほぼ毎食をここで済ませていくミリーやリリー、護身術を教えてくれているフウカと比べては、やはり関係性は俄然低い。


「まぁモーニングの常連さん、という意識しかないですね」

「あ! 名案を思いつきましたぁ!」


 聞いてくれ。なんだってこの世界の人はこんなにマイペースなんだ。


「昼食を教会に卸して頂けませんか? 十人分です!」

「……それは構いませんが」


 朝は人がまばらなので、その程度なら仕込む余裕はある。


「その時にですねぇ、いっぱいお話しましょうね!」


 そのまぶしい笑みを見ていると嫌とは言えず、結局は笑って頷くしかないのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ