表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/29

三章 才能

 ――ミシミシミシッ!


「な、なんか凄い音してるんですが!?」

「あー、動かんでくださいっス。下手すりゃ死ぬっスから」


 翌日の早朝。忍者整体、というものを俺は施されていた。無論、フウカからだ。

 十分くらい骨が軋むような音と共にいじられていたのだが、ポンと背中を押された瞬間、ガシっと何かがはまった音がした。


「ほい、完了っス。立ち上がってみてください」


 体を――なんだ、凄く軽くなっている。おまけに、力がみなぎっているのを感じた。


「それが忍者秘伝の整体っス。通常骨格では、人間の持てるポテンシャルを活かせないんっスよ。まぁ、例外的に団長やらはそんなの無視して、気力という力を使ってるっスね」

「気力?」

「はいっス。チャクラとかもそうっスね。マイナーな呼び方で、剄力とかも該当するっスよ。あっしらはチャクラって呼んでるっスけど。人の限界が五だとすれば、今の忍者整体で十に。チャクラ開放で……まぁ個人差はあるっスけど、低ければ二十、高い人だと千を超えるっス。団長は一万レベル越えの化け物っスよ。あっしは……八千、っスかね。まぁチャクラは才能がなければそもそも、発動しないんスよ。あんたには才能があるみたいなので、今から起こすっスよ」

「起こす?」

「気脈、というものが人間にはあるんっスよ。で、普通ならチャクラは目覚めることはないんスけど、他人のチャクラが流れ込むとそれが呼び水となって、血液に乗って流れ出すっス。……まぁ、論より証拠。ハッ!」


 左右の肩甲骨の間、か? 微妙な位置に指が差し込まれ、熱い何かが体内に入る。


「ぐあっ!?」

「おお、始まったっスね」


 血液に乗って、内側に眠っていた熱さが体中を駆け巡る。心臓の鼓動が、それをどんどん循環させ、それが漲るまでに数秒を要した。


 感じるのは、寒気すら感じるエネルギー。これが、俺の中にあったものなのか?


「……どうっスか?」

「凄い……力を感じます」

「その力を、目へ集中させて。そう、他のエネルギーをも集める感じで」


 深呼吸し、エネルギーをコントロールする。

 目へ。視界がどんどんクリアになる。やたらと滑らかに動く、木の葉。

 不意に彼女の放った拳も、難なくはじけた。


「そう、チャクラを集中させれば、その部位を強化できるっス。これがチャクラを使った体術っス。あっしの実力、今なら分かるんじゃないっスか?」

「……確かに。敵いませんね」


 他人の鼓動を感じる。同時に、流れている気力の強さも。脈動して、発している。

 彼女のチャクラは圧倒的な量だった。それでも、ミリアストの方が強い、と考えると……想像すら及ばない。


「チャクラを使えれば、他人のチャクラにも敏感になるっス。鼓動で分かるんっスよ。その気になれば隠せるっスけどね。ま、その顔だと分かってる感じっスね。……さて、これからは毎朝一時間、みっちり戦闘訓練っスよ! まぁ仕事でいない時は休みっス」

「はい、フウカちゃん」

「……そういえば、ちゃん付けっスか。まぁいいっスけど」


 彼女との訓練が始まった。





 フウカとの訓練はかなり過酷だった。

 最初は軽く十分、走りまくる。それから体を伸ばして、体術。そして、真剣を使った稽古。何度も死んだ、と思ったが、彼女の卓越した技量で、傷一つすら俺にはつかなかった。


「あ、ありがとうございました、フウカちゃん」

「なに、いいっスよ。さて、朝飯! 何かあるっスか?」

「おにぎりなんてどうでしょう。白米が入りましたし、昨日キングサーモンの塩漬けも作りましたので、鮭おにぎりなど。赤味噌しかないですが、お味噌汁もありますよ」

「くぅ~! 食べたかったんっスよね、和食! ち、ちなみに、おいくらっスか?」

「二十ベルドで。パンとかなら、もう少し下げられるんですが」

「いやいや、二十ベルドで! いやぁ、楽しみっス!」


 厨房に戻り、俺はすぐに準備をする。

 キングサーモンを焼き、その身を解しておく。

 少し硬めに炊き上げたご飯を、冷水にくぐらせ塩をなじませた手で適量を取り、握っていく。

 完全な三角になる前に解し身を入れて、更にぎゅっと結ぶ。

 俺の分も含めて、合計四つ。味噌汁は、ジャガイモとわかめだ。


「はい、お待ちどうさまです。おにぎりはいくつにしますか?」

「二つで。……ん、味噌汁美味いっス……! おにぎりも……うん、最高っス! 塩加減絶妙っスね!」

「ありがとうございます。……うん、中々いい出来です」


 朝早くなので、人はいない。二人だけである。なので、俺も食事を摂っていた。

 と、ドアが開かれる。


「いらっしゃいませ。……おや、マルグリッドちゃん」


 昨日の十字架をあしらった服ではなく、質素なミントグリーンのワンピースのいでたち。それがまた、可憐で似合っていた。


「どうも~! ここのお食事と紅茶が美味しいって、リリアストちゃんが仰ってたのでぇ、来ちゃいました~! モーニングをくださいな!」

「はい。モーニングセットは十五ベルド頂きますが、よろしいですか?」

「まぁ! 安いですねぇ! では、それで~!」

「かしこまりました。少々お待ちを」


 紅茶用に空気を含ませた水をケトルに入れて、沸かし始める。

 その間に、俺は焼き上げていた平たいパンを、半分に割る。ベーコンを二枚焼き上げ、それにはさむ。

 マヨネーズに黒コショウ、少量のマスタードを加えて混ぜたものを作る。ベーコンの上にそれを掛けて、その上にサニーレタスを乗せ、サンドする。

 卵を割り、塩と牛乳、砂糖を入れる。フライパンにはバターを。最低限混ぜるだけの動作で、ふわふわのスクランブルエッグを作る。

 昨日から煮込んでいたトマトと豆のスープを器に入れて、食事が完成。

 そして沸騰直前でケトルの火を止め、砂時計を使い、紅茶を作れば完璧だ。


「お待たせいたしました。モーニングセットになります」

「どうもー! まぁ、美味しそうです! まずスクランブルエッグから~……」


 もぐもぐと食べ、彼女は大きな目(糸目気味だったので目が大きなことに驚いた)を見開いた。


「ふわっとしてて、卵の甘みが感じられて……! とろっと溶けちゃいますよ! すごいです! レンさん、でよかったですよね?」

「ええ、レン・ヤナギバと申します。お口にあったのなら、何よりの幸せです」

「ふふっ、珍しいですね。食べ物屋さんは豪快な人が多いんですけどぉ……爽やかですねぇ」

「ホントっスよ。ま、そこがレン大将のいいとこっスね。気取らないし、優しいっス」

「あはは、俺は優しくありませんよ」


 その後も、談笑しながら食事を楽しむ。

 朝の穏やかなひと時だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ