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二章 急転

「え!? ガルベルトさんが亡くなられたんですか!?」


 驚きを隠せない俺に、ディナーを食べにきていたロッタが頷いた。


 ガルベルト。俺にこの店を譲って、バスターになった男性である。


「ガルフに喉元をガブってやられたらしいぜ。……まぁ、初心者で単独行動してりゃ、そうなるよな」


 大したことではない、と言わんばかりに、ハンバーグを頬張るロッタ。

 ……危険な職業なんだな、バスターって。


「お、大将のハンバーグ……何か不思議な味がするな。確かに、あっさりしたハンバーグだ」

「お口に合いますか?」

「合う合う! すっげえ美味い! けど、これなんだ?」

「昨日来たお客さんに譲ってもらった、ソイソースと言う調味料です。その他にも、ライスや大根、昆布に鰹節などをこれから卸してもらえるようになりまして。これは俺の国のメニューなんですよ。お酢、濃い口のソイソース、薄口のソイソースを一ずつ足して、上に柑橘を絞ったソースです。ポン酢、と呼んでいましたが。ハンバーグの上に、この大根の摩り下ろし、それとそのポン酢を掛けた、和風ハンバーグです」

「ワフー? ……大将、変な言葉知ってるのな」

「あはは。……あ、この方ですよ。リョウさん、先日はどうも」

「うむ、若大将。昨日のうどんは非常に美味でござった。……今日も、頼めるか?」

「そういうと思って、作ってありますよ。鶏肉で出汁をとった、鶏団子と若鶏、それと鴨と白菜の水炊きです。うどんは締めに」


 リョウが食べなければ俺が食べるつもりだった。


「おお、鍋か! かたじけない。おいくらだ?」

「五十ベルドで構いませんよ」

「すまない。……ああ、ポン酢もあるのか。東洋料理に通じてらっしゃるな、若大将。うむ、美味い! 白菜の芯がとろとろになって……うーむ、さすがでござる」

「お口に合ったなら、何よりです。うどんが食べたくなったら仰ってください、その出汁で煮込みますので」

「ありがたい! ……うむ、やはり故郷の味が一番でござるな。自分の料理はあまり美味ではない上、出費がかさむばかり。やはり、若大将に相談してよかった」


 出会いは、俺がこの間買った、和服を着て歩いていた時のことだった。

 羽織に袴姿の剣客――リョウと出会い、同郷か! と言われたのがきっかけ。


 で、故郷ではないが、共通する食べ物の話題で盛り上がり、店でうどんを作り、出してみたところ好評だった。本場、讃岐で修業した師匠を持つ俺としては、美味しくて当然なのだが。


 その縁で、東洋と通じる商人を紹介してもらい、食べものを卸してもらうことに。


「おっす、やってるか、レン!」

「おや、ミリアストちゃんと……そちらは?」

「ああ、紹介しようと思って」


 ミリアストは少女二人を連れていた。一人はところどころに十字架があしらわれたデザインの白い服を着た人物、ニコニコしている。もう一人は……忍装束、といった紺色の服を纏っている少女。


「こっちのシスターはマルグリッド」

「マルグリッドですぅ。よろしくお願い致します、レンさん!」


 ふわふわと、くるくるとした長い青……というよりは、水色ような髪を揺らして、スカートの裾を少し持ち上げた。俺も頭を下げる。


「こっちはフウカ。色んな道具を使う戦闘のプロだ」

「どもっス。おっ、水炊きに……うどんじゃないっスか! おおお、こんなところでお目にかかれるとは」

「シスターのマルグリッドちゃんに、忍者のフウカちゃんですね。自分はレン――うおっ!?」 


 フウカと呼ばれた人が、俺の胸倉をつかんで引き寄せる。甘い匂いがした。

 ウィスパーで耳打ちをしてくる。


「……忍者って何で分かったんっスか? どっかの抜け忍っスか?」


 スッと黒い菱形の刃を向けてくる。怖過ぎる。


「クナイをしまって下さい。俺の世界では、忍者と言うものは有名で……」


 言うと、思案しているような顔になった。


「そういや、別の世界から来たってワケ分からんことをリリアストさんは言ってたっスけど……。本当に、あっしを追ってきた忍者、ではないんスよね?」

「ええ。俺は忍者と、一切関わりを持っていません。俺が勝手に知っているだけなので、忍者や侍は」

「なるほど。いやぁ、いきなり掴み掛かったりして、悪かったっス」


 彼女が離れると同時に、花のような香りも消えた。


「どうしたんだよ、フウカ。いきなり掴み掛かったりして」

「やー、てっきり元の職業のヤツかと思って。お詫びに、何か協力するっスよ」

「あー、じゃあ護身術……というものを、教えてくださいませんか?」

「なんでまた。料理人は料理で食っていけると思うっスよ」

「……食材を採りに行く時、さすがに護身術程度を身につけておかないと。損にはなりませんから。それに、どんな仕事でも体が資本ですからね。できれば、お願いできませんか?」

「あっしは種のない土に水を撒く行為はしない主義っス。ちょいとお体を拝見するっスよ」


 フウカは俺の体を無遠慮に触り始めた。


「……おお、いや凄いっスよ。一万人に一人レベルの素材じゃないっスか! あんた、かなり運動できるでしょ?」

「ええ、まぁ不得意ではありませんが」

「上半身はそれなりで、下半身が凄いっスよ。秘密の整体を施して、気脈を起こしてやれば、グリーンドラゴンならタイマンレベルっス。おおお、あっしの弟子に相応しいっス!」


 そう、いつ俺も外で、魔物に出会うか分からない。

 なので保険を掛けておきたかった。


 ……できれば、平和な訓練になりますように。

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