二十三章 遠乗り ~フウカ編~
「お、いたいた! レン!」
フウカが駆け寄ってきた。ニッと笑い、裏手を指差す。
「バイク使って、ちょいと行かないっスか?」
「どこへ?」
「武器を買いに。いつか、一人前のお祝いを買うって言ってたと思うっスよ。ここの武器職人は手入れ……メンテナンスっスね。それは結構な腕何スけど、あんまり武器作成は上手くないんっスよ。で、ちょいと山の方に行くと、東の職人が作ってる武器が並んでる店があるんっスよ。緑も綺麗っスよ!」
「……そうですね」
例によって買出し中だが、まぁ問題ないだろう。朝のピークは過ぎているし、昼に少し遅れたところで問題ない。
というか、外に出る理由が買出しくらいしかないのが悲しいところではある。室内の仕事なので、当たり前といえば当たり前なのだが。
「分かりました、向かいましょう」
「うっス、そうこなくっちゃ。じゃ、早速行くっスよ」
バイクを出して、俺が跨り、フウカがしっかり俺を抱きしめる。
女の子の体って、柔らかいんだなあ。感触も一人一人、違うような気もする。香りもだ。
そんなことを考えながら、指示通りにバイクを走らせていく。
踏み固められた道を進んでいると、木々のトンネルがある。
「おお……」
「綺麗っスよね」
確かに、美しかった。速度を落とし、ゆっくりと進む。
木漏れ日を浴びながら抜けていくと、ようやく村が見えてきた。
「……」
「大分違うっしょ?」
まるで時代劇を見ているかのように、その村は日本風だった。
かやぶきの屋根、だったか。一旦火事が起きると激しく燃えそうな家屋が群れている。
人通りはまばらだ。バイクを物珍しそうに眺められながら、俺達はゆっくりと道を行く。
「ここっス」
バイクを停め、武器などが立て掛けられている店にやってきた。奥の方からは金属音が聞こえ、熱波が汗の臭いを伴いつつ流れ込んでくる。
「おう、嬢ちゃん。どうしたんだ?」
「親友に武器を買ってやろうって。何かないっスか」
「何が才能あるって?」
「確か、貫通の貫」
「おう、待ってろ」
奥の方にいく男。しばらくして、長物を持って帰ってきた。
パッと見て分かるのは、槍が多い。弓や刀もあったが、どれもほどほどの長さだった。
「貫通、は弓、槍みてえな貫くことを主とする武器だ。手にとってみな」
言われ、まずは槍を手に取る。
穂先に菱形の金属がついた代物。見た目よりは軽いが、振るってみるとしなやかな武器の感覚が少し気持ち悪い。
「うーん……」
次は弓。いや、そういや撃ち方も分からないのに、これは無謀ではないか。やめておこう。
最後に刀だ。
古めかしい、木製の鞘に収まっている刀を選ぶ。反りがなく、どちらかといえば剣のようだが。
抜き放つと、意外としっかりした重さがあり、刃紋が美しい。
「いいですね。しっかりした刀だ」
「……お前さん、お目が高いな」
「え? これは……確か、直刀と呼ばれる部類でしたよね」
「大刀、とも呼ぶがな。昔の剣だ。そりゃあおいらの師匠が打った刀だ。頑丈で、よく切れて、貫くことにも使用できる。刀の原点、とも呼べるな」
ためしに振るってみる。
しっくりくる重さ。振り抜く速度も結構なものだ。
「これがいいな。いくらですか?」
「やるよ。もってけ」
「いえ、しかし……ただというわけには」
「何でそれだけ、そんな古ぼけた木製の鞘なのか。分かるか?」
「……いえ」
「みすぼらしく見せるためだ。人ってヤツは、どいつもこいつも新しいものが好きだ。そういうものを抜きで、武器として素晴らしいと本質的に物事を見れるヤツ……お前さんみたいなヤツが、こいつを継ぐに相応しいんだ」
「俺は……そんな立派なものじゃないですよ。直感と、しっくりきた感じで選んだだけですから」
「それが運命さ。現に、今まで誰も手に取りはしなかった。ただ一人、お前さんを除いてな。持ってけ」
「もらっとけばいいじゃないっスか」
言われ、渋々受け取る。
まさか、ただとは思っていなかった。申し訳ないような気持ちになりつつも、まじまじと自分の武器というものを確かめる。
頼もしい。が、重い。これは、殺すための道具なのだ。……やはり、色んな意味で重いな。
「これを持っていくといい。括り付けるための道具だ」
革紐をくれた。何から何まで、本当に頭が下がる。
「ありがとうございます。えっと……」
「キスケだ。お前さんは?」
「レンと申します」
「そうか。レン、大事に使ってやってくれ」
「後で手入れとか教えるっスよ。んじゃ、キスケさん。またくるっス」
「おう、フウカの嬢ちゃん。レンのアンちゃんも、また来いよ」
「は、はい。ありがとうございました!」
……いいのかなあ。
そうは思いつつ、俺はベルトに革紐で刀を括り付ける。
「お、そうだ。ちょっと」
手招きしてくるので、俺は奥へ行く。
森の開けた場所。湧き出る水が見える、そんな場所に俺達はやってきた。
「武器買ってあげるのはなくなっちゃったっスから、忍術を教えるっス。忍術としては、最初で最後の教えっスよ。チャクラ開放を教えておくっス」
「開放?」
「そうっス。一分程度、身体能力を極限にまで到達させる技っス。その代わり、反動がおよそ三十秒。満足に動けないっスよ。だいたい三十分は再使用は不可能っスね」
印を組み、フウカはニッと笑った。
「ポーズは何でもいいっス。集中できるもので。で、全体のチャクラを心臓に向けて流し込むイメージ……すると、こうなるっス」
フウカの全身が輝きに満ち溢れる。多分、一気に気力を押し込むことで、反動で全てのチャクラを溢れさせる技だろう。
「分かったっスか?」
「はい」
「あ、まだやんないでくださいっス。あっしが先に力尽きるんで」
言って、しばらくすると輝きが失せ、フウカはその場にへたり込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
「って風にっスね。確実にその時間内で相手を殺すか、背中を預けられる誰かと一緒じゃないと……死ぬっスよ」
ニコッと微笑む彼女から、自分がどれだけ信頼されているのか、伝わった。
「……ありがとうございます。俺なんかを、こんなに信じてくれて」
「何言ってるんスか、レン。俺なんかって、何スか。自己評価が低いと、逆に嫌味っスよ」
しかし、正直友人として、フウカと釣り合っている気がしない。
俺なんて、料理しかとりえのない凡夫でしかないのだ。
ミリーも、リリーも、マギーも、そしてフウカも。何で俺と仲良くしてくれているのか、イマイチ分からない。
「……んじゃ、次はレン。やってみるっス」
「あ、はい」
目を閉じて、体に循環する気力を、心臓へ。
――ドクン!
一際心臓が大きく脈動し、奥に秘められていた気力が爆発する。
同時に、今まで味わったことのない、凄まじい高揚感。今ならば、何でもできそうな。初めて気力を覚えた時より、強烈な感じだ。
「どうっスか?」
「凄まじい力を感じます……」
「ま、体中の気力が爆発してる状態っスから。チャクラを集中させてみてくださいっス」
手のひらに集めるイメージをすると、一瞬で球が形成された。
「おお……」
「そう、ほぼ溜め無しで技も撃てるっスよ。……そろそろっスかね」
急に体中から力が抜ける。くたっと倒れそうになった俺を、何かやわらかいものが受け止めてくれた。
仰向けに倒れたつもりだったのだが、フウカが見えている。すると、このやわらかいものは、太もも? 膝枕、というヤツか?
「す、すみません」
「いーっスよ。ついでに、お昼寝しませんか?」
「店の仕事があるのですが……」
「一日くらい、いいじゃないっスか。ほら、風が気持ちいいっス」
そよ風が吹き、木々をざわめかせる。流れる水音も優しく耳朶を打ち、俺は頭から感じる人の温もりで睡魔が訪れた。
「……すみません、膝、お借りします」
「はいっス。存分にどうぞ」
言い残し、俺は眠りの世界に誘われた。




