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二十一章 遠乗り ~リリアスト編~

「レーン!」


 ドンドンドン、と店のドアがノックされる。リリーの声だ、間違いない。

 昼、だろうか。今日は休日で、思わず二度寝をしてしまった。

 スーツを着込み、扉を開けると、リリアストが立っていた。怒ったかのように頬を膨らませる。


「早く出てきなさいよ」

「すみません、先ほどまで寝ていたもので。それに、女の子に会う時に、身形をチェックしないと、ですから」

「……ふん、気障ね。まぁいいけど。ねぇ、一緒にお出かけに付き合ってくれない? ペガサスレンタルも高いし、お姉ちゃんもフウカもマギーも忙しいみたいで。バイクに乗せてよ!」

「構いませんよ。どちらへ?」

「次元谷。バイクのあった場所よ。あんたの故郷の手掛かりが他にあるかもしれないし」

「別に俺は帰りたいとは思っていませんが」

「あたしが知りたいのよ。この世界の他に、高度なレベルの文明が存在している……これは知っておきたいのよ」

「粗方、お話したと思うのですが」

「実際に見るまでは納得できてない部分もあるわ。百聞は一見にしかず、よ。さ、行くわよ! さっさと準備する!」

「はい」


 朝食がまだだったので、昨日朝食にと思っていたパンなどの食料をいくつかカバンに詰める。一つは自分で食べて、ミルクで流し込んだ。

 銃を入れるポーチをベルトに括りつけ、カバンを引っさげて鍵を閉めて、準備完了。


「よし、準備はいいわね?」

「ええ」


 裏手に置いていたバイクを起動させる。

 俺が跨り、続いてリリーが腰掛けた。


「さ、飛ばして頂戴! 道は追って指示するわ!」

「了解!」


 アクセルを回して、キューンとバイクは進む。


 リリーの細かな指示の元、辿り着いたのは草原だった。谷、の下だ。上には崖がそびえている。

 各地に何らかの風化した後がある。

 そのギリギリ原形を保つ一つに、既知感を覚えた。


「これは……」


 朽ち果て、風化しているが……ビル、なのだろうか。コンクリートだ。


「よく分からない材質のものがたくさんあるでしょ?」

「いえ、俺は知ってます。これ、コンクリートです」

「何よそれ」

「確か、俺も本で見ただけなんですが……石灰石、というものと粘土からできている、セメントというものを元に、水と砂利で化学反応を起こさせて固形化させて作るものです」


 中学生の頃に図書館で読んだ本の記憶を引き出してそう答える。

 廃墟には様々なものが散らばっていた。ほとんどが石くずと紙片だったが、見覚えのあるものが。


「ボールペン……」

「なにそれ。棒切れがどうかしたの?」

「見ててください」


 高級そうだったから、多分大丈夫だ。

 落ちていた紙片に走らせると、インクが線を描いた。


「!? ま、まさか、それ……筆記用具なの?」

「ええ。この先に小さな球があって、重力によりインクが落ちて球に一定のインクが流れ、軽く押し当てるだけで文字が書ける……そういう道具だったかと」


 文献ではどうだったか、正直小さい頃だったのであまり覚えていない。

 それをリリーに渡す。彼女はまだ、驚いているようだった。


「文明的に高度だって言ってたけど……凄いわね」

「……この世界は、もしかしたら……」


 仮説だ。仮説でしかないが、この世界は、異世界なんかじゃなくて……地球がなんらかで滅んで、また人類が蔓延った世界なのか?


 いや、にしては……天体が違う。

 太陽や月もあるが、月が四つ、北に白、南に青、東に緑、西に赤の月があるのだ。

 分からない。だが、地球だと考えると、多くが符合する。

 俺はもしかして、異世界からではなくタイムスリップしたのではないのか。その可能性が浮上した。

 その事を話すと、リリーは少し考えていたが、いきなり俺の腹にパンチを入れてきた。


「な、なんですか」

「つまんない事、ぐるぐる考えないの。過去も未来も、どうだっていいじゃない。あんたは今、ここで生きてるの。……現状、不満なんてないんでしょ?」

「ですが、リリーが言ったんですよ。知りたい、って」

「それはこの世界がどう、とか。そんなんじゃないわよ。まだ見ぬ発明品、それらのなぞを解明して、この世界で蘇らせる。それが、あたしのしたいことよ」


 ……彼女もまた、自分のしたいこと。自分の道を、キッチリ見据えていた。

 俺のやりたいことは、料理……の、はずだ。

 けれども、なんだろう。同じ、やる事をきっちり見据えているのに、彼女を羨ましいと感じてしまうのは、なぜだろう。


「ほら、どんどんそういうの教えてね! 探すわよー!」

「お付き合いします」


 ひとまず、家族である彼女の夢のため、その手伝いをしよう。

 探索はリリーが心ゆくまで行われた。

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