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序章 始まり 2

 彼女達は俺を街まで連れて行ってくれるという。というか、そうしないと水もなしに平原を渡ろうなんて、自ら干からびようとしている馬鹿だけらしい。

 ペガサスという翼のある馬の乗り心地は、正直微妙だったが、味わったことのない感覚。高所を駆け、風を切る爽快感が楽しい。

 彼女は一人で狩りに行き、その帰りだったそうで。二人と荷物をペガサスは乗せていたが、グングン飛んでいた。


「へえ、お前料理人志望だったんだ」

「はい。俺は十五歳から、色んな場所で色んな料理の修行をしておりまして。で、地位のあるレストランで働き始めて、調理を任されてた……んですが、気がついたら見知らぬ場所にいて……」

「うーん、わかんねぇ。ま、そういうのって大抵魔術だから。知り合いに会わせてやるよ」

「助かります。えっと……貴女は?」

「あ、名乗ってなかったな。アタシはミリアスト。バスターズ『怜悧の剣』のリーダーだ」

「バスターズ?」

「バスターズもしらねぇのか! ま、簡単に言えば、街の連中の依頼、クエストって言うんだが、それをこなすヤツらだな。……ってことは、魔物もいねぇのか?」

「そんなの、物語の中の架空生物……じゃないんですか?」

「かーっ、本当に違う世界から来てるっぽいな。あのな、さっきの狼も、小さいが魔物だぜ。ガルフっての。それのリーダーがファンガルフってんだけど、あいつの肉筋張ってるけど噛むとな、肉汁がばーっと出て美味いんだ!」

「はぁ……」


 あれ食うのか。どんな味がするのやら。


「お、あれも魔物だぞ」

「でかっ!?」


 先ほどのガルフを一際巨大な……何かが捕食している。鱗に覆われて、地を這うような巨大トカゲ。そんな感じのヤツ。


「ありゃアースリザードだな。あの大きさなら成体だ」

「大きいですね」

「その程度で感心するな、レッドドラゴンとか見たら腰抜かすぜ」

「……どのくらい大きいんですか?」

「ちいせぇ山くらいはあるな」


 ……でかいな、そりゃ。


「そんな魔物を倒したんですか?」

「ああ、レッドドラゴンは一年前だけどな。ドラゴンが出るたびに呼ばれるからなぁ。最弱のグリーンなんて、何百回も狩ったぞ」


 強さの基準がイマイチ分からないが、ドラゴンっていえば、最強モンスターの一角である。そういえば、と、年下だろう彼女の剣を思い出す。あの剣を扱えている筋力もあるだろうし、かなりの実力者に違いない。


「料理できるなら、仕事も紹介してやれっかもな。三十代半ばのおっちゃんが、バスターになりたいからって、後継者探してたんだよ」

「色んな方が志されているんですね、バスターという職に」

「まぁな。でも、才能ない奴は一日で消える。そんな世界だよ」


 と、街らしいものが見えてきた。城のような建造物も確認できる。


「ほら、王都ガレオンだ。降りるぞ、掴まってろ」

「うおおっ!?」


 ぐん、と高度が下がっていく。

 小さいが頼もしい彼女に掴まって、俺の空の旅は終わった。





 本をめくっていた、その手が止まる。


「……多分、召喚術の失敗よ」


 彼女もまた、少女だった。

 ミリアストの妹であるリリアスト。魔術に深く知識と力を持っていると、ミリアストのお墨付き。

 で、今の状況を話したら、そんな答えが返ってきた。


「召喚術って……何か、例えば精霊なんかを呼び出したり、そんなのでしたっけ」


 俺も何本か、ファンタジー系のゲームはやったことがある。

 言うと、同じくふわふわとした髪をお人形さんのように下ろしてあるリリアストが頷いた。


「召喚術は、契約した精霊や魔物を呼び出し、使役、そして元の場所へ送り返す。これが一連の流れなの。で、失敗すると極稀に、異次元と繋がっちゃうらしいのよ。で、その異次元と繋がる場所は、不明。限りなく近いケースもあれば、遠いどこかというケースも報告されてるらしいわ」

「あー……。じゃあ、運悪く、次元が繋がった場所に俺がいたってことですか」

「そ。頭は悪くなさそうね、あんた。名前は?」

「レン・ヤナギバ。リリアストちゃん、だよね。よろしくお願いします」

「……なんで敬語なのよ。そっちの方が年上でしょ?」

「うーん、すみません。なるべくフランクにしようとは思うんですが、こうなっちゃうんです」

「いいじゃねえか、リリー。初対面で馴れ馴れしいよりずっといい」

「まぁ、確かにそうね」


 乳白色のワンピースに、夜色のローブ。それにブーツにとんがり帽子のいでたちの、魔女っぽいリリアストが立ち上がる。


「それじゃ、いこっか」

「え? どこへ?」

「あんたの就職先よ」

「ほら、行くぜ」


 案内してくれるのは助かるけど、俺、働くの確定なんだね。いや、異論は全くないんだけど。





「おーっす」

「ん? おお、ミリアスト。そっちの彼は? 男連れなんて珍しいねぇ」

「こいつ、働きたいんだって」

「ど、どうも。レン・ヤナギバって言います」


 大男に頭を下げる俺。


「……君、レン君。ちょっとステーキを焼きなさい」

「え、えええ? いきなりですか?」

「あはは! 肉一つ焼けないのかい? これは失礼した。お皿でも洗うかい?」


 カチン。


「そんなわけないでしょう。俺は六歳から包丁を握り、十五歳の頃から料理の修業をしているんですよ。ステーキなんてそんなもん朝飯前です」

「ほほう。ソースも適当に作って良いよ。そこにある食材と調味料を使って、やってごらん。肉は奥の冷蔵室に入っているよ」

「はい」


 火は……うん、点くな。仕組みはよく分からないが、温度調節のレバーがある。

 俺はまず、肉を奥の冷蔵庫から取り出し、塩と胡椒を擦り込んで……ああ、ハーブもあるのか。香りは、ローズマリー、タイム……いろんな種類がある。とりあえずタイムを擦り込んだ。

 多分、豚肉。ただ、脂身がいい具合に入っている。利用しない手はない。

 豚肉の脂身あたりに包丁をすっと入れる。格子状にするのがいい。


 しみこませている間に、付け合せの準備だ。


 水を沸騰させ、ジャガイモと皮を剥いたにんじんを放り込む。茹で上がったら、にんじんを取り出して水を捨て、ジャガイモのを皮を剥く。すぐに剥けるので、そしたら更に弱火にかけ、粉を噴出させる。こふき芋ができあがる。


 肉を焼いていく。中火くらいで焼いていく。火力がどれくらいあるか分からないが、感じは音で分かる。

 片面をこんがり焼き上げたらひっくりかえし、赤ワインを入れてフランベ。そして蓋をする。

 水音が聞こえなくなったら蓋を空け、肉を取り出した。肉はすぐに切ると、肉汁が溢れて、流れ出てしまう。なので、旨みを閉じ込めるために、蓋をして待つ。


 その間に、豚肉の脂が残っているフライパンに、先ほどのにんじんを入れる。

 バターと軽く砂糖と塩で味をつけ、焼き目がついたらそれを取り出す。

 豚の旨み、それからバターのコクがあるフライパンへ、ケチャップ、赤ワインを少量加えて、加熱。とろとろしてきたら完成。


「ほほう、凄い手際だ」

「味も保障しますよ」


 盛り付け用の鉄板を熱し、そこに豚肉、付け合せ、ソースを掛ければ出来上がり。


「……はい、豚のステーキ、ケチャップソース掛けの完成です。

「どれどれ。ミリアスト、リリアスト、一緒に判断してくれ」

「おお、美味そうだな!」「……見た目はいいわね」


 赤いソースが鉄板でじゅうじゅうと熱されている。

 切り分けて、それを各々、口の中に運んだ。


「! おおおお! 何だこれ、すげえ美味い! ただのミドルポークなのに!」

「何よ、美味しいじゃない。このおっさん以上よ、少なくとも」

「……これは、完敗だな。初めて入ったキッチンでこんな立派なものを出されたら……正直、オレの立場がないね」

「これは譲れませんから。修行も終わりかけですので、俺の腕は一流か二流でしょう」

「自信があるようだね。……よし、じゃあこの店を君にあげよう!」

「は?」


 店をくれるって、どういうことだ?


「オレはバスターになりたかったんだが、この店は親から継いだものでね。空けれなかったんだが、君がいれば大丈夫だろう!」


 そういや、そんな話を聞いたな。


「まぁ、好きにしろよ」


 なぜか浮かない顔のミリアストがそうつぶやき、俺の背中をぽんと叩く。


「レン、良かったな! これで仕事ができそうだぜ?」

「う、うん。ありがとう」


 いきなり、個人の店。

 俺の料理だけの、お店。

 いつかは自立したいと考えてたけど、こんな形でお店を持つことになるなんて。


「頑張れよな。アタシらも来てやっから!」

「美味しいのを頼むわよ」

「頑張ってくれよ、レン君!」

「あ、あはは……」


 はてさて、どうなることやら。

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