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十六章 相棒

「よっ」

「いらっしゃい、ヴォルフ。今日は何になさいますか?」

「ステーキ。チキンがいいね、種類は任せる。スパイシーに頼むぜ」

「お任せください」


 ヴォルフガングという男がいる。

 この街で騎士をしていた男らしい。しかし、退屈な日々に耐え切れず、バスターに転向。バスターズには入らず、ソロでの活動を主としている。


 どこで知り合ったかといえば、一人でキノコや山菜などを採りに行った時、偶然、ビッグベアーと戦う彼に遭遇し、共闘して倒したのがきっかけだった。


 一週間の内、一日をランダムで休むようになり、散策の時間を取っているが、よくこのヴォルフガング――いや、ヴォルフとつるんでいた。色んな店を紹介してもらったり、逆に商人を紹介したり、バイクで遊んだり。『怜悧の剣』を除くと、彼が唯一、私的に交友を持っている人物である。


 そんな彼はよくこの店にやってくる。こいつは甘いものも辛いものも、何でも好きなのだ。しかし不味いメシは嫌いだそう。お眼鏡に適ったようで、毎日のように訪れていた。


 高い身長になびく長い黒髪、鋭い眼光がトレードマーク。しかし、実際はフランクで人当たりは悪くない。ただ、他では見せていないが、皮肉屋でもある。喧嘩っ早いのも知っていた。


「にしたって、よく働くよな。お前も気力使えるなら、店畳んでバスターになれって。一攫千金だぜ?」

「うーん、常連がいる以上、バスターにはなれませんね。お手伝いはさせて頂いていますが」

「『怜悧の剣』だろ? あんな超人軍団、引っ張りまわされてねえか?」

「まぁ、ほどほどですよ。簡単な依頼しか。この間も、ジュエルゴーレムを……」

「倒したってのか、おいおい。簡単に言うが、ゴーレムなんて弱点知ってなきゃ壊せねぇだろ。知ってても、稼動したゴーレムは腕利きのバスターでも難しいんだぜ? 何せ、石とか宝石とかをぶっ壊さないといけねえからな」

「教えてもらいましたので。左の『E』の文字を砕けば、と。後は蹴っ飛ばしました」

「……ま、つええのは気力で分かる。ていうか、ジュエルゴーレムっつったよな? 亡骸は宝石だろ? いくらになったんだよ」

「高額そうだったので、辞退しました。『怜悧の剣』の皆さんで分けていると思いますよ」

「アホかお前、稼げる時に稼いでおかねえでどうすんだよ。……ホント、欲がねぇのな。聖職者にでもなったらどうだ?」

「いるかどうかわからない神様を信じ続けるほど、マゾではありません」

「そりゃそうだろうけどな。お前、オレと同類の匂いがするぜ。本当は口、もうちょっと荒っぽいんじゃねぇか?」

「……なぜ、そう思われるのですか?」

「勘だよ、勘。オレ、勘にしたがって動いて、外れた試しがねぇんだよ。ぶっちゃけ、胡散くせぇんだよ、お前の喋り方」


 そこまで言うか。頑張って直したのに。


「これは努力の結晶です。一日やそこらで崩壊してしまえば、俺のイメージも崩壊してしまいます。せっかく、優しい店主ということで知られていますのに」

「おーおー、腹黒いなやっぱ」

「当たり前ですよ、伊達や酔狂で言葉遣いを直したワケじゃないんです。メリットがあるから、こんな面倒な言葉遣いをしているんですよ」

「ま、一度ボロが出ちまえば、そういう矯正は一気に崩れるんだがな。その時期じゃなさそうだぜ」

「はいはい。鳥の香草入りスパイス焼き、お待ちどうさまです。パンはいつものでいいですか?」

「おう、堅いやつな」


 全粒紛で焼き上げた丸いパン――カイザーゼンメルを二個、皿に置いて出す。ヴォルフはいつもこれだ。


「うん、うめぇなオイ。やっぱ仕事上がりには美味い飯だな。おい、レン。酒。キンッキンに冷えたビール」

「言うと思いまして。はい。ジョッキも冷やしてありますよ」


 ビールは、種類によってはジョッキを冷やすのが野暮な部類がある。エール系がそうだ。あれは風味や味を楽しむもの。日本で多く作られていたラガービールはスキっとした味わい。キンキンに冷やして飲むのが最適。


 この世界で仕入れているビールは、どちらかといえばラガーに近い。なので冷やしてあるのだ。


「お前、マジで気が利くな。……かーっ! うめぇ!」

「ビールはただ苦いだけだと思いますがね。料理に少し使うくらいですか、肉の煮込みに使うと臭みが取れて柔らかくなるんです」


 エールは普通にのめるけど。あの濃厚な味は、ゆっくり飲むのにちょうどいい。だが、ラガーはイマイチ好きではなかった。客に好評なので出しているだけである。


「アホか、味わってどうすんだよ。ビールってのはな、喉越しを楽しむもんだ。勉強しな、レン」

「今度やってみましょう」


 ヴォルフは酒を飲んだって全く酔わない。いつも酔っ払っているようにテンションが高いので、今更だ。


「大将、こっちに焼き鳥十本! もも、タレで!」

「かしこまりました」

「こっちに天丼二つ!」

「はい、お待ちください」


 氷で冷やしている、卵の黄身と水を先に混ぜる。同じく冷やしておいた、ふるいにかけた薄力粉を混ぜて作った液で、海老と下味をつけた鶏肉、野菜を包んで揚げていく。

 その間に、遠火でじわじわ焼いていた、まだ半分生の鶏肉を火の強い場所に移動させた。


「……すげえ手際だな、相変わらず。一人で回せるわけだ」

「できなければ人を雇いますよ」


 カウンターには、今はヴォルフだけ。遠くで酒を酌み交わしている男が十人、メシを食べているのが二組だ。一組はもう注文を終えている。


 時刻は夜中。深夜、というわけじゃないだろうけど、早くもない時間だ。

 サクッと揚がったてんぷらを丼にご飯をいれたものに乗せ、みりんに濃い口醤油、出汁、砂糖を合わせたタレをご飯にまでしみこませる。それを二つ作った。


「はい、天丼二つ、お待ちどうさまです」

「サンキュー大将! いやぁ、東の方のメシも美味いな!」

「お口にあったのなら、何よりの幸せです。今後ともご贔屓に」

「おう!」


 調理場に戻り、串を回転させて調節する。

 醤油、砂糖、みりん、料理酒、隠し味の七味唐辛子、全てを混ぜて火に掛け、とろみをつけたタレを刷毛で塗っていく。タレの焦げる香ばしい匂いが立ち上る。美味いんだよな、これが。


「おい、レン。オレにもその焼き鳥くれ。二本な」

「かしこまりました」


 遠火のものから二本持ってきて、同じく焼いていく。

 先に焼きあがった物を団体に持っていった。


「はい、焼き鳥十本、お待たせしました」

「ありがとな! おう、こいつが東の焼き鳥って料理だぜ!」

「親方も最近知ったっていってたじゃないっスか!」

「がっはっは! お前らよりゃよく知ってるぜ! 食ってみろよ」

「……うめぇ! 甘辛いタレが……肉汁が……! うめえええええ! 親方、これすげえ美味いっス! ビールと……うおおお! 美味い!」

「だろ? さっすが大将だぜ!」

「恐縮です」


 急いで戻り、残りの二本を焼いていく。

 焼き鳥が余るな、これを夕飯にするか。焼き鳥丼にでもして。

 というか、贅沢な焼き鳥だ。

 原価が安いせいか、日本とは違い、肉は少し大ぶりだ。

 しかし小さいからいい、というのも分かる。駄菓子の大きいヤツがそんなに美味しく感じなかったのは、あの適度な大きさが影響しているのは間違いない。


 なので、その中間を上手く貫ける大きさを心がけている。


 焼き具合を見ていると、ヴォルフが口を開いた。


「なぁ、オレと一緒に旅しねぇか? オレは色んな世界を見て、色んな魔物と戦いてぇ。お前もあるんじゃねえか? もっと、色んなものを見てぇってよ」

「……そうですね。この世界にしか存在しない料理……調味料……調理法……それには、非常に興味をそそられます」


 ヴォルフには、俺の大方の事情も話していた。てっきり笑い飛ばすものかと思ったら、「嘘吐いたってしゃあない話題だろ、こんなん」と、意外にも真顔で応じられた。


「よし、決まりな。いつか店辞めて、この街を出て、見聞の旅に行こうぜ。お前と一緒なら、メシは何とかなるだろうしな」

「その分、戦闘などはお任せしますよ? はい、焼き鳥お待ちです」

「任せろよ。サンキュ、後ビールもう一杯」

「はい、お待ちください」


 まぁこの店を辞めるなんて、今は想像もつかないけど。

 とりあえず、今日もいっぱい稼いで、人の笑顔を眺めていよう。

 それが俺の生きがいなのだから。

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