十四章 男の集い
「うーむ」
三色団子と緑茶を前に、うんうんと唸っているのは、サルトビ。
「どうかなさいましたか? お口に合いませんでしたか?」
「む? ああ、若大将殿。団子は美味しゅうございます。悩んでいるのは別の事でして。……ふむ、若大将殿なら。お知恵をお貸し願えませぬか」
「俺でよければ。何でお悩みなのですか?」
「フウカ様の誕生日が、二日前に迫ってきておるのです」
「フウカ、十八歳になるのですか」
見かけなら十五歳くらいなんだけど。
「それで、贈り物をしようと思っているのですが……うーむ、年頃の娘の喜ぶもの。難しゅうございます」
「うーん、俺も女性経験が豊富というわけではありませんし……。いっそ、本人に尋ねる、というのも。いらないものを貰っても嬉しくはないでしょうし」
「それも手、ですな。うーむ……」
まぁプレゼントなんて、悩んでいる時間の方が充実しているだろうし。
誰かのために何かしたい。その気持ちは大切なものだ。動く原動力になる。
「手作り……は、今からでは厳しいですよね」
「残り二日でございます。うーむ……」
そこへ、リョウがやってきた。
「若大将、大盛り豚肉うどんを」
「はい、お待ちください」
豚肉うどんは、普通の肉うどんとは少し違う。味付けも少し甘いくらいに止め、生姜を利かせて豚の臭みを消している。
「お待ちどうさまです。そうだ、リョウさん。十八歳くらいの女の子って、何を貰ったら嬉しいか、ご存知ですか?」
「若大将、どなたかに懸想をなさっているのでござるか?」
「ああ、違いますよ。この方が悩んでいまして」
「サルトビと申します」
「リョウと申す。……贈り物でござるか。年頃の娘の欲しがるものなど……ふむ、拙者も不得手でござって」
「難しいですよねぇ」
と、更に来客。
「ああ、ロッタ君。いらっしゃい」
「大将ー、オレうどん! 肉うどん!」
「はい、お待ちください」
最近、ロッタは箸の使い方を学んで、和食を食べるようになった。興味が湧いた事に意欲的に取り組むのがロッタだ。
「彼にも聞いてみましょう。ロッタ君、君は誰かと交際していらっしゃいますか?」
「まぁな」
鼻頭をこすりつつ、照れくさそうにロッタは頷いた。
「幼馴染なんだけどさ。いつもはうるさいんだけど……いないと、寂しいっていうか。うん、まぁ、好きなんだよ。向こうから告白したから、オーケーしてさ。……で、それが?」
「今ですね、女の子の喜びそうなもの、という議題でお話をしているんですよ」
「へー。やっぱ花とか宝石とか?」
「えっと、残り二日で、年の離れた娘に渡すー、と、言ったような感じのものを」
「やっぱそいつがさ、何を望んでるかって。それが一番だと思うぜ。あいつは……オレの彼女なんだけど、そいつは、オレと一緒に喋ったり喧嘩してたりする方が楽しいんだって」
いいカップルだ。でも、参考になりそうにはないな。
「おや、カウンターが男の密集地になっているね」
「ゼル、いらっしゃい」
貴族のゼルまでがやってきた。カウンター席に腰掛け、男の密度が上がる。
「メルトをアイスティーで」
「かしこまりました。そうだ、ご協力願えませんか? 相談に」
「いいとも、何でも言ってくれ」
「女の子のプレゼントなんです。誕生日なんですが……」
「そうだね。やっぱり花じゃないかな。薔薇をありったけ使ったブーケなんかどうだろう」
「うーむ……お嬢様は昔から、武器などを楽しんで学んでいたので、花は興味がないかと」
「花に興味がないのか、そのお嬢さん。珍しいな」
皆して考え込む。
「武芸に通じていらっしゃるなら、名剣や名刀などはいかがでござるか?」
「お嬢様はプロでございますから、並大抵のものでは……」
「んじゃ、メシ奢るとか」
「このジジイの最後の贈り物になるかもと考えますと、食事は……」
「やはり宝石はどうだい?」
「ふーむ、高いですからな。それにお金に変えられる物は……」
堂々巡りである。
その後も話は一時間ほど続いたが、結局決まらなかった。
「だーっ! 全然きまんねぇ!」
ロッタが先に音を上げた。
「僕は失礼するよ。夕方に、従妹へ稽古をつける約束をしていてね」
ゼルはお金を置いて退散。
「む、拙者も夕刻の走り込みをしなければ。サルトビ殿、ご健闘を!」
リョウも去っていった。
「やはり、思い出に残るようなものはないのでしょうか……」
「うーん……。いつも使うものがよいでしょうけど。……あ」
一つだが、思い浮かんだ。
二日後。
「お誕生日おめでとうございます、フウカお嬢様!」
「十八っスよ、これで。なーんか実感湧かないっス」
「そういうものですよ、フウカ」
深夜。俺とサルトビ、それからフウカでささやかなパーティを営んでいた。
「はい、これは俺からです。誕生日ケーキをご用意いたしました」
クリームにベリーを飾った、シンプルなケーキ。チョコレートがないので、ケーキの真ん中にジャムを使って『フウカ、お誕生日おめでとう!』と描いた。一発で成功できてホントよかった。失敗すれば面倒な事になるし。
「おお、美味そうッスね!」
「して、これはジジイからでございます」
結局、サルトビが用意したのは、手拭いだった。
「……あっしの名前が入ってるっスね」
俺が刺繍したのだ。風情ある白と紺色の模様の手拭いに、赤い糸で名前を縫った。
「できれば、お使い頂けると幸いでございます。このジジイもそんなに長くはないでしょう。お嬢様なら武器は自分で調達していらっしゃるでしょうし、日用品にしてみました」
そう、日用品だ。
親しい人から貰ったら、そりゃ愛用する。それを考えての決断だった。
「……ありがとっス、サルのじーさん。長生き、してくれっス」
「はい、フウカお嬢様」
その後、思い出について語る彼女達の会話は、朝方まで続いた。




