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1-1 最愛の彼女のための、RTA




 俺は、彼女を守るための剣で、彼女を殺した。




 彼女の肌の柔らかさを知っている。

 ――――今はもう、その美しい肌は、無惨に刀傷だらけになっている。


 彼女の甘い声音を知っている。

 ――――今はもう、怨嗟だけが吐き出される。


 止めどなく、血が、命が、流れ溢れて落ちていく。


「グリス……。これで、お前は……。私の、願いは……」

 

 『グリス』。

  久しぶりに、その呼び方をしてくれた。


 俺はグリスニル・ウェイトリー。

 世界を守る、《勇者》だ。


 彼女は、ソルティル・ヴィングトール。

 俺の最愛の恋人()()()



「――黙れッ! 世界を滅ぼすと吠えたその口で、俺を呼ぶな……ッ!」


 彼女へ突き立てた刀を捻り、傷を広げ、心臓を刳り――彼女の死を、より確実なものにする。


 

 刀を引き抜くと、彼女の体が、どさりと倒れる。

 

 殺した。

 《魔王》ソルティル・ヴィングトールを、今ここに討ち果たした。


 最愛を殺して、グリスニル・ヴェイトリーは、《勇者》を完遂した。



 グリスニルの生涯において、最も忌むべき栄光だった。




         ■  ■  ■




 彼女を殺してから、ずっと彼女のことを考えていた。


 確かに、世界は平和になった。

 争いはなくなった。


 ――だが、もう彼女はいない。


 これでよかったのか?

 彼女との結末は、本当にあんなものしかなかったのか。

 答えがでないまま問い続け、戦い続けた。


 魔王軍の残党との、無茶な戦闘を続け、グリスニルは倒れた。


 勇者の死を世界は悲しみ、勇者の死によって奮い立った人類は、魔王軍の残党にも勝利して、戦いは終わった。


 人類側の誰もが、これでよかったと思っているだろう。


 だが、グリスニルはそうは思えなかった。

 本当に、彼女を救う方法はなかったのか?


 あり得ない奇跡を願いながら、彼の生涯は終わった。



 ――――なあ……ソル、俺たちは本当に、こんな道しか選べなかったのか?





             ■  ■  ■


 




「――それじゃ、そろそろ本当に選びたかった道を探してきなさい」




「……は?」


 グリスニルは死んだ。





 確かに、死んだのが……。


 目の前に、銀髪の少女がいた。


「誰だ、キミは? ここはどこだ?」


「私はホロロ。ここは……そうねえ、今は死後の世界とでも認識しておけばいいわ」


「死後の世界……。ではホロロ、そこにいるキミは俺に裁きを与える神か?」

「はぁ? 失礼な……、違うに決まってるでしょ? 私は『時』の神。くら~い冥府の陰キャと一緒にされるなんて最悪」


「時の神……?」


 グリスは首を傾げる。

 『火の神』や『水の神』など、神にも様々なものがいるが、『時』というのは聞いたことがない。信仰が廃れた神なのだろうか。



 ――――()()()()()()()()()()()()()



「そろそろ思い出した? 『時の神なんて設定あったっけ?』……って、そう思った? ならそれで合ってるわ。だって、私、あなたのプレイした『1』には出てこないもの」


「わん? ぷれい? せってい……? なにを言って……ううッ!」


 その時、グリスの思考にノイズが走った。

 設定? プレイ?


 ――そうだ、そうだった。


「――グリスニル……いや、俺は……『来栖ルイ』」


「そ。それがあなたの『転生前』の名前」


(俺は……、確かに『グリスニル・ヴェイトリー』だ。だが……、同時に、俺はこのゲームを……、この世界を、俺の人生を題材にした『ゲーム』である、『グレンツェル・レガリア』をプレイしていた記憶がある……!)


 思い出した。


「俺は……、プレイしていたゲームの世界へ転生してるってことか?」


「で、その転生してきたって記憶をなくしたまま、『ソルティル闇落ちラスボス化ルート』の人生を終えて、死んだってわけ」

「そんな、ことが……?」


 混乱する。



 『転生前』と『転生後』。


 日本でゲームをプレイしていた頃と、ファンタジー世界で『グリス』として生きた記憶。


 二つの人生、二つの記憶。二つが上手く噛み合わない。




「どうして……今になって思い出す! 最初から、この記憶があれば、ソルを救えただろう!?」


「私に当たられてもなあ……」


「だったら誰が悪い!? なぜこんなことになった!?」



「なら、もう一度言うね――『そろそろ本当に選びたかった道を探してきなさい』」



「どういうことだ……?」

「ゲームなら、セーブした地点からやり直せばいいでしょう? ま、この世界はゲームじゃないから、そんなに簡単にやり直しはできないんだけど……、でも今は特別な条件が揃っててね。やり直せるよ――ソルティルを、あなたの大切な人を救えるの」

「……やり直すって、どこから?」

「あら、できるかどうか疑わないんだ」

「今さら疑ってどうなる? 俺はもう死んだのに、俺を騙してどうする?」

「そりゃ確かに。さすが転生者、飲み込みが早い。リスタートは、ゲームのシナリオ開始時点からだよ」

「シナリオ……学園に入学するところからか……」


 『グレンツェル・レガリア』。

 転生前の世界――日本で大人気だったファンタジーアクションRPGだ。

 特徴は、豊富なルート分岐。

 プレイヤーの選択次第で、主人公やヒロインが、世界を救う英雄も、世界を滅ぼす魔王になってしまう。


 ソルティル・ヴィングトール。

 ゲームおいての、ヒロイン。

 彼女はこの世界における最強の武器――《グレイスレイヴ》を持つSランクの勇者。

 ゲームのシナリオにおいて、彼女は最後に仲間になる。

 最後の仲間だけあって、ステータスはパーティー内で最強。


 だが、ルート次第ではラスボスになってしまうので、彼女を強化した上で、彼女がラスボスになるルートへ進むと、手のつけられない最悪のボスになってしまうという恐ろしい仕様だ。



 (転生直後の記憶がないまま失敗した人生を、『一周目』としよう――そこで俺は、パーティーの強化など、ゲーム知識を利用したことは、ほぼしていない)


 

「『二周目』は、もっと上手くやる。必ず、彼女を救って、ハッピーエンドにたどり着く」


「……。……そ。ま、頑張ってね。私はただ、『()()』を果たすだけだし」


「……?」

「今のあなたには関係のない話ね。さあ、さっさと行きなさい」

「……ホロロ」

「……なによ?」


「……事情は知らないが、ありがとう。どうして『神』である君が、俺に都合のいいことをしてくれるのかはわからない。俺はゲームでも君を見たことがない。君がなんなのかはわからないが、それでも、ありがとう」


「……あー、はいはい、どういたしまして。……言っておくけど、たぶん、あなたは私を恨むわよ。きっとすべてを恨む。

条理を曲げて幸福を得るのなら、その過程で必ず、どこまでも不条理な不幸に襲われる。その不条理に殺されて、何も得られない、今よりももっと辛いバッドエンドだってありえるわ」


「構わない。ソルを救えるのなら、なんだっていい」


「はいはい、ごちそうさま。ま、なんでもいいわ。それじゃ、()()()


「…………また?」


「ええ、縁があったら、また」


 そして、グリスの意識は断絶した。



 ■





 七聖暦(しちせいれき)998年――4月。


 エシルガード王立勇者学園、入学式。


「貴様……《壊れた器(ブランク・グラス)》》の分際で、この僕に逆らうのか!?」


 目覚めた瞬間、目の前に激高している少年がいた。





(……これ、チュートリアル戦闘だ)



 覚えている。


 目の前の怒っている彼は、ワーグ・リュスタロス。

 《氷の神・ラキエス》の加護を持つ、Dランクの魔術師。

 リュスタロス家は名門の貴族で、優秀な人材を多数輩出しており、とてもプライドが高い。

 

 本来のシナリオだと、ここで序盤のパーティーメンバーである幼馴染ヒロイン『エイル』と親友キャラ『ヴァルト』が現れて、ワーグとその取り巻き二人を加えた戦闘になる。


 ――だが。


(……ここは、俺一人で十分だろう)


 いくつか検証したいことがある。


 まず、どこまでステータス差を無視して戦えるか?


 今の主人公=『グリスニル』=グリスは、レベル1だ。


 

(だが、俺は『グリス』であり、このゲームをやり込んだ『来栖ルイ』でもある)



 グリス/ルイには、『ゲームの知識』と、一度は世界を救った『経験』がある。


 ならばおそらく、多少の無茶は通るはず。


 そして、シナリオはどこまで無視できるのか?


 ゲームシナリオ通りでも、ソルは救える。


 だが――本当にそれでいいのか?

 ゲームのシナリオでは、避けられない犠牲がたくさんある。


 そもそも、ソルが闇落ちするのもそれが原因だ。



 シナリオでは、大切な人が、大勢死ぬ。

 それらを捻じ曲げることはできないのか?


 できるのなら、シナリオ通りに進めるよりも、もっと良い未来にたどり着ける。


 レベル上げとか、サブクエストとか、やってる暇はないだろうな。

 最短で、最速で、シナリオを終わらせて、彼女を――ソルを苦しめる全てを、取り除く。


 彼女のための、RTA(リアルタイムアタック)といこうか。




 さあ、検証開始だ――――どこまで速く、世界を救える?











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