指先に吐息を落として
今日こそは決める。絶対決める!!!
私は強い決意と共に、決戦の舞台に乗り込んだ。
「……その雄々しい顔つき止めないと、誰も寄り付かないよ」
隣で義弟がしかめっ面をしているけれど、あなたの顔もなかなかよ。
「静かにして。私は今日は一番大事な日なの」
「前回もそう言ってなかった……?」
「前回は前回で一番だったのよ、人の心というものは日々更新されていくのよ、覚えておきなさい」
「……はぁ」
我が伯爵家は代々男子相続。亡くなった母を今でも愛し続けている父に、後妻という選択肢はなく、親戚筋からこちらの義弟が跡継ぎとなるべく養子になった。
それはいい。
義弟はそこそこ本家と血が近く、父との相性も良く、優秀だ。私が嫁いでいなくなった後も、問題なく領地と領民を守ってくれるだろう。
と、なると伯爵家の本家唯一の娘として私がやるべきことはひとつだけ。良家に嫁ぎ、両方の家の繋がりを深めて更に発展する為の架け橋となることだ。
つまり婚活!
時は社交シーズン、場所は舞踏会。
そろそろシーズンも終わりに差し掛かった頃、同世代の友人達はそれぞれパートナーを見つけ、一番早い子なんてこの前結婚式を挙げていた。急ぐ理由でもあったのかしらホホホ。
参列して飲んだシャンパンは、ちょっぴり苦かったわ。
「これまでも、舞踏会ではちょっといいカンジになった人だって何人もいたのに……」
伯爵家の令嬢、ともなれば条件だけで声を掛けてくる人もいる。だけどその後がどうも上手く事が運ばないのだ。何が悪いのかしら?
「義姉さん、顔は可愛いもんね」
「何か言い方に棘があるわね。でも自分でも、特に目立って悪いところはないと思うんだけど……」
「頭、かなぁ……」
「失礼ね、あなたは性格が悪いわ」
腹が立ったのでドレスに隠れて義弟の足を踏んづけてやろうと思ったら、さっと避けられた。おのれ、小癪な。
二人して目立たない壁際にいながら、だん、だん、と足を踏んづけようとする私と避ける義弟がまるでステップでも踏んでいるかのように攻防を繰り広げる。
「大人しく踏まれなさいよ」
「嫌だよ、痛いじゃないか」
「だから痛い目をみなさいと言ってるの」
「嫌なこった。それより義姉さん」
ぐいっ、と腕を引かれて、しつこく義弟の足を踏もうとしていた私はバランスを崩す。
ぽすん、と義弟の腕に柔らかく抱き留められて、唇を尖らせた。
「ちょっと、危ないじゃない」
足を踏もうとしていた自分を棚に上げつつ抗議したが、義弟の方もそんな抗議はあっさりと無視して話を進める。
「頭の悪い義姉さんに、今すぐ婚活を円満に解決出来る方法を教えてあげようか?」
「教えて!」
明らかに馬鹿にされたけれど、正直焦っている私はぎゅっと彼の胸元辺りを握ってその提案に食い気味に飛び乗った。
するとにこりと笑った義弟は、私の腰を抱いたまま空いている方の手で私の手を取ると、指先にちゅっ、と音をたててキスを落とす。
「?」
「正式な手続きを取れば、義姉弟って結婚出来るの知ってる?」