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異世界居酒屋の常連さん!(のちの夫婦である)

深く考えずに、ふわっと読んでいただけると幸いです!


「……おや、これは聖女様。いつもお美しい」

「まぁ、聖騎士様。ごきげんよう」


 王城の廊下で出会った二人は和やかに挨拶を交わした。互いに大勢の取り巻きを従えている。

 かたや、教会の歴史上もっとも膨大な魔力と強力な癒しの力を持つ、銀の髪に宝石のよう煌めく青い瞳の神秘的な美女。大聖女ソア。

 かたや、騎士トーナメント公式試合負けなし数々の魔物退治で武功をたてた有名な英雄、太陽の光のごとく眩しい金髪に血のような真っ赤な瞳の精悍な美丈夫。聖騎士のイライジャ。

 王国の有史以来これほどの傑物が同時代に二人、ということで何かと注目の的なのだ。


 *


「今日の会議は本当に疲れたー! とりあえず生ビールください。あと枝豆」

「わかる。最後のほう顔やばかったよ、ソア。あ、俺もビールください、あとたこわさ」

「女子に顔やばいとか、言う奴のがやばいからね? イライジャ」

 数時間後。ソアとイライジャは、王都の下街の居酒屋にいた。


 二人とも目立つ髪だの目だのは一応色粉や魔術を駆使して黒髪黒目に変装している。服装も地味な色のオーバーサイズの質素なものを着て体形を隠していた。

「てか最初からたこわさ……それならセイシュになさいよ」

「最初の一杯はビールなんでしょ」

「そっちはこの店のセオリーに従うんだ……」


 ソアはオトオシとしてだされたマカロニサラダをフォークに刺して口に運ぶ。

 最初の頃は食べたことのない料理が注文してもいないのにテーブルに置かれて焦ったが、今は何が出てきても美味しいと信頼している。

 そしてそもそも毒を盛られたところで自分で浄化しちゃえば何の問題もない、と気づいてからは積極的に知らないメニューを頼むようになった。雑な大聖女である。


「たまには違う店行こうって思うんだけど、ついここ来ちゃうんだよな……」

「何故か誰も私達のこと気にしないもんねー王都では見かけない種族の方も時折いらっしゃ……知らないやつらも見るし、そういう場所なのかも」

「口調わざわざ変えなくてもいいんじゃね?」

「自分で嫌なの。聖女喋り、昔はムズムズしたのに今じゃそっちの方が通常になっちゃってて」

「確かに大聖女がスラム育ちの元スリだとは思わないよな誰も」

「それヨソで言ったら、まじでアンタでも消すからね。本気だからね」

「おお、俺が応戦したら王都が焦土になっちまうからな。俺の双肩に王都の平和がかかってるわぁ」

「……このチンピラが聖騎士とか、世も末すぎて滅ばないように明日も女神様に多めにお祈りしとくわ」

「届くといいね」

「大聖女なめんな」

 届いたばかりの枝豆をソアがびしっ! と指で飛ばすと、イライジャは慌てず騒がず口を開けてそれをぱくりと食べた。


「あげたんじゃないんですけどぉ~」

「まじか。返しましょうか聖女様」

「……あんたの口に入ったものなんて返されても困る」

「じゃあ……クッ……たこわさ……分けようか……?」

「そんな惜しそうにするなら全部食べていいから。いらないから、たこわさ。どんだけ好きなのよ」

 何故かこの居酒屋の存在は王都の誰も知らなくて、店に入るとソアもイライジャも全く知らないメニューばかり出て来る、不思議な店だった。

 しかし大食漢かつ酒飲みの二人にはぴったりの店であり、それぞれにコソコソと変装してコソコソと酒場に通っていた聖女と聖騎士は意気投合して、時間が合うと一緒にこの店を訪れるようになった「飲み仲間」だ。


「この前の魔獣やばかったよねー」

「あーあれは本当にまじ聖女様サマサマってカンジだった。浄化と癒しまじすごい」

「ほほほ、もっと崇めてもよくってよ」

「すぐ調子乗るー」

「いやいや、聖騎士サマもすごかったよー守ってくれた時はドキッとしたもん」

「まじ?」

「いやそれアンタの仕事でしょ」

「手厳しい!」

 ソアは何故か慌てた様子でメニューを引っ掴んだ。

 悩んだ末にハムカツを頼むと、すぐにテーブルに届いたその揚げ物の薄さに感動しつつソースを掛けている。箸という二本の棒も用意されているが、食べにくいのでナイフとフォークを使って切り分ける。

「イライジャ、ちょっと食べる?」

「欲しい。この黄色いの何?」

「ん-カラシ」

「あ……俺これ苦手」

「ワサビは好きなのにカラシは苦手なんだ」

「全然違うじゃん。あとワサビが好きってかたこわさが好きなんだよ」

「そのたこわさへの執着ほんとなんなの」

 かくいうソアはワサビが若干苦手だ。

 あつあつのハムカツを齧って、はふはふと食べた後に飲むビールは美味い。

「なるほど……さてはこれはチーズと一緒に挟んであるとなお美味しいはず……!」

「すげぇな。その美貌で言うと何でも世界の真理ぽく聞こえる。中身はただの食いしん坊なのに」

「何言ってるの。食べることは、生きることよ……」

「聖女オーラだして言うのやめて。一瞬有難いお話に聞こえちゃって笑えるから」

「笑うとこじゃないのよ。ぶん殴るわよ」

「いいカンジに酔ってきたねソア」

「名前を呼ぶのやめてくださいますぅ?」

「えーすみませぇん」

「腹立つなコイツ……」

 自分はさきほどあっさりとイライジャの名を呼んでいたことを棚に高く上げるソアだった。


「チキン南蛮と南蛮漬けとカモ南蛮は全然違う料理なのに、ナンバンと名前がつく意味がわからん」

 イライジャが難しい顔をしながら南蛮漬けを齧る。こちらは器用に箸を使いこなしていて、しかも難しい顔をしていても美形は美形だ。

「ナンバンっていうのが国とか地域の名前なんじゃない? ほら、コラータ領の郷土料理は何焼いてもコラータ焼きっていうじゃない」

「だとしたら幅広い郷土性だねナンバン」

「きっとご飯が美味しい土地なんだろうねぇ」

「ナンバンに感謝だねぇ」

 しみじみと二人は頷き合った。


 最初のビールを飲み干したあとは、イライジャは辛口の日本酒を飲みソアは焼酎の水割りに梅干しをいれたものを飲んでいる。

「面白いよね。この塩漬けのフルーツはショウチュウに入れても美味しいのにご飯にも合うんだから」

「お酒に漬けると甘いお酒になるのも面白い。あ、それは砂糖と入れるから?」

「それにしても料理を色々分けて食べられるのも、イライジャが一緒に行ってくれるからだよ。いつもありがとう」

「わぁ。突然のお礼に、今から豪雨でも降るのか心配になってきちゃった。傘持ってないんだけど」

「よーし。そのよく回る舌、引っこ抜いてあげよう」

「いつも方向性がバイオレンスだよね、聖女様」


 ソアはよく食べよく飲むが、実は量はさほどではない。彼女が喜々として頼んだ料理は大半はイライジャの腹に収まるので、ソアはそれなりにイライジャの嗜好を気にしているのだ。

「芋を揚げただけなのに何故こんなに美味い……!」

「真似したいけど出来る気がしない」

「聖女様、料理ってか家事全般ダメだもんね」

「聖女としてこれ以上ないぐらい活躍してるのに、この上家事能力や字の綺麗さや歌の上手さが必要だったりする? 適材適所よ」

「あ、字が汚くて音痴なんだね、可愛いな」

「可愛いかしらぁ??? あんたは弱点ないの。今度脅すのに使うから教えなさいよ」

「え、脅されるの俺じゃん? なんで今ここで自分から弱点晒すと思うわけ」

「……ワンチャンありかなって」

「ソアが何も考えずに喋ったことは分かった」

「酔っ払いの戯言じゃないのよぅ」

「まぁそうなんだろうけど、自分で言うと台無しだよ」

「よしよし、たこわさもう一皿頼んであげるから言え」

「おっと既に脅されてるぅ」

 イライジャはケラケラと笑った。

 それから、うーん、と考えてそっと呟いた。


「……好きな子には、めちゃくちゃ甘い」


 それを聞いた瞬間、咄嗟にソアは席を立った。

「…………はぁ? それって脅す材料になる? つまんない。もっと面白いこと言う男だと思ってた」

「待って、声低い! そしてやけに攻撃的だね。何でそんな怒ってんの」

 慌ててイライジャはソアの腕を掴んで止め、椅子に座るように促す。

「別に? だったら好きな子とこの店来なさいよ。甘やかしてあげればいいじゃない、商売敵なんかと飲んでないで」

 ソアが唇を尖らせると、イライジャの目が丸くなる。


「…………俺は、今、好きな子をすっごく甘やかしてるつもりなんだけど、伝わってなかった?」

「……直接言え、ばか」


 *


 この後あまりにも強大な力を持つ二人なので、別々に伴侶を得て後世に血脈を繋いで欲しいという国の思惑や、千年に一度現れる魔王との闘いや、そもそも嫁姑問題などなどの大小様々な問題が二人を待ち受けていた。


 二人はそれらの問題の全てをバッタバッタとなぎ倒し、無事に結婚して、二人の男子と一人の女子を設け、その後も夫婦仲良くこの居酒屋に通い続けるのだけれど。


 それはまた、別の話!!!



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