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43. 待ち人


 改めて朔埜を見上げると、何だか嫌な笑みを浮かべて見えるのは、気のせいか。

「言うてたやろ。四年前から俺の事が好きやって。人生変えるほどの運命の出会いやって……まあ俺の顔は覚えていないようやったけどな」


 確かにそうだけれど。最後の台詞が怖いけれど。でもそんな話いつ……

 

 そういえば以前、得意気に朔埜に話したかもしれない。あれは藤本の事を疑われるのが嫌だったから……だけど──


(あれ、もしかしたら私。本人相手に愛の告白をして、いた……?)


 と、いう事は。やっぱり最初から……


 ──わああああっ?!


 さあーっと顔が青褪めていく。その後ボンっと熱が弾ける音がした。


「は、は、は、恥ずかしい!」

「ははは、やっと気付いたか。もっと悶えろアホ」

「い、意地悪!」


 そうだ。あの時、朔埜に藤本との事を誤解されたくなくて、四年前について話したんじゃないか。

 ……ただその時にはもう、史織はとっくに朔埜に惹かれていたのかもしれないけれど。

(だからきっと、私はあんなに必死に言い訳を……)


 わああああ。

 自分は朔埜が大好きなんだと、しかもそれを当人に熱心に語っていたと知り、益々身体が熱くなる。


「史織、もう二度と俺を忘れるな。そうじゃなきゃ嫌って程お前に俺を刻み込むぞ」

 低い脅しに、ひいっと喉の奥が引き攣るのを感じる。

「わ、わかりました。肝に銘じます!」


 とはいうものの。

 今から忘れるのは、絶対に無理だろうけれど。とひっそりと思う。


「お前肝ないやろ。嘘言うなや」

「……言葉のあやですよ。何言ってるんですか」


 むうと頬を膨らませていると、やっと朔埜が手を離してくれた。

「取り敢えず、当面はこれで」


 そう言って素早く片手で腰を抱かれ、唇にふわっと優しい感触があって……


 近すぎる顔が少しずつ離れていったと思ったら、悪戯っぽい眼差しがこちらを覗き込んだ。


「は、わわわわ……っ」


 わたわたと震える史織に、朔埜は満足そうに口の端を吊り上げている。

「な、な、な、何してるんですか!」

「誓いのキスやろ」

「誓いって。な、な、何を……っ、」


 ぺろりと何かを舐めとるように、自分の唇に舌を這わせる朔埜に目眩を起こしそうになる。


「確か……生涯これを愛し、病める時も健やかなる時も、とか」

「お、重いです!」

 平然としている朔埜にはツッコミしかない。

 結婚式じゃあるまいし!


「……さっき一緒になるって言ったやろ」

「そ、それは先々……そうなりたいという意味でして……」


 どうやら混乱を深める史織を見ていると、朔埜は冷静になるようだ。楽しそうに笑った後、再びにやりと口元を歪めてみせた。

「慣れろ、これがお前の選んだ男や」

 残念やったな、と無言のままに。肩に置かれた手が語っているような気がする。重い。けれど、やはり嬉しい気持ちが勝ってしまう。

「うう……」

 ……それにしても。恋と言うのはこんなだったろうか。


 今まで相手に焦がれた事しかなかった史織には、何て、言うかこう……追い詰められるような恋は、どうしていいか分からない。


「慣れ……ですか」

 多分、それしか無いような気もするが、恥ずかしい事に変わりはない。

 もじもじと身動ぐ史織に、朔埜はふと視線を外し、張り付けた笑顔を作った。

「史織、部屋に戻ってろ。後で迎えに行く」

 首を傾げている間に背中を押す朔埜を振り返れば、その向こうから乃々夏が歩いてくるのが見えた。

「あ……」


 自分も一緒にいた方がいいのではないか。

 そう思うもすぐ考え直す。

 

 乃々夏は自分とは話したくないだろう。史織が逃げたくないと踏ん張る行為は、乃々夏がここまで歩いて来た道を遮る行為だ。

 それをよりによって朔埜と並んでそれを阻止されるのはきっと、悲しい。


「分かりました……」


 後ろ髪引かれる思いで振り返りながら。

 史織はその場を後にした。


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