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25. 見る目なかった


 痛い。

 倒れた時に圧迫された胸が痛み、浅い呼吸を繰り返す。

 先程目の前に現れた男が史織の襟首を掴み、力任せに放ったらしい。ふらつく頭を持ち上げれば藤本と、その後から見知らぬ男が複数出てくるのが見えてぞっとした。


「もしかして聞いちゃった?」

 いつものように優しい笑みを浮かべる藤本に、泣きそうになってしまう。

「あ〜、ほら。藤本、駄目だろ〜泣かせたら」

「泣いてる女の方が好きなくせに……ねえ、千田さんも大変だったんだろ? 俺たちも一週間も研修で息が詰まって辛くてさ。一緒に息抜きしようよ、って話なんだよ」

 

 ──本当に、ずっとこんな人だったんだろうか。

 自分はどれだけ見る目が無いんだろう……


「嫌、最低、嫌い……警察に言うわ」

「警察なんて、困るのは千田さんでしょ? 何を証拠に出すつもりなの? 裁判で全部証言しなきゃいけないんだよ、出来るのかな?

 気持ちよかった〜、てちゃんと本当の事も言わなきゃいけないんだよ、言える?」


 にやにやと笑う藤本に──目の前の嫌悪を耐えるように顔を顰める。何とか逃げられないかと、じりじりと後ろに下がる。

 三芳辺りが都合良く用事でも言いつけに探しに来てくれないかと思うが、勤務明けに仕事を言い渡された事は無いし、緊急の業務連絡を受けた事は無い。


「あなたたち、初犯じゃないでしょう……」

 思わず口にしたそれは、時間稼ぎというには拙い。けれど妙に腑に落ちた。

 史織を囲む男は全部で四人。そうでなければ旅先で、これだけの頭数がいるのに、誰も諌めず、当然のように纏まるだろうか。史織に目を付けなければ、他の旅館従業員か、社内の女性に危害を加えるつもりだったのかもしれない。


「そんな事、千田さんには関係ないでしょう? あ、でもこれからは会いたいから、東京まで遊びに来て欲しいな」


 そう言って伸びてきた藤本の手を反射的に叩き落とす。

「触らないで!」

「痛、酷いなあ……」


 そう言って笑ってみせるその人の顔が、以前好きだった人と重なってはぶれていく。自分の見る目の無さに悔しくなるが、それどころではない。

 史織はうつ伏せのまま、必死に携帯をまさぐり、連絡先アプリを起動させようとしていた。


(早く、助けを……京都で助けに、来れる人……)

「もういいから連れこんじゃおうぜ〜、藤本」

 仕方がないと笑う藤本に嫌悪の視線を向けながら、史織はスマホを身体で隠しながら操作し続ける。

 

「あん?」

 けれど焦りが出たせいか、身動いだタイミングで男の一人が史織の動きに勘づいた。

 史織は勢いのみままスマホを手に取り、アドレスの一つをタップした。


「こいつ!」

 けれどコール音が鳴ると同時に男に取り上げられ直ぐに切られる。

 そのまま遠く放られるスマホを見送り史織はぎゅっと奥歯を噛みしめた。

「残念だったな〜」


 ◇


「……あら」


 ブーブーと、機械音が響く。

 乃々夏は失礼します、と断りを入れスマホの画面を確認した。


 ──史織ちゃん


 そう映し出された画面を伏せ、当主に笑みを返す。


「誰だったか?」

「──いえ、何でもありませんわ」

「……そうか」


 そう呟き火鉢をつつく当主の手元を見ながら、乃々夏はふっと笑った。


 ◇


 ──ダサい、悪者の台詞そのままである。

 そんな思いを噛み締めていると、両脇からガシリと腕を掴まれ動きを牽制された。

「さあさ、もう行こう。いい加減冷えてきちゃったから、あったまろうぜ〜」

(気持ち悪い……でも、時間稼ぎをしないと……)


「離して!」

 その言葉に史織は首を左右に振り抵抗する。


「そんな固くならなくても、優しくしてあげるからさ〜」

 断固としてお断りである。

 ぎっと相手を睨みつけ、思いつく限りの悪態を吐き出そうと口を開く。

「ふざけんな」


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