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1. 旅先でトラブった時の適切な対処法って何だろう


 スニーカーの底が抜けた。

 旅先で。


 ズボッと大きな音を立て──


 靴が壊れた。


 久しぶりに履いた靴のありえない仕様に、千田史織(せんだしおり)は内心で絶叫した。


(嘘でしょう、──ここで?)


 抜けた靴底を戻すように、史織は浮いていた踵を戻し起立の状態で立ち止まる。


「……」


 いやいやいや──


(どうしよう……?)


 旅先である。

 しかも昼ならまだしも夜半過ぎ。

 更に言うとここは見慣れぬ街並みの古都京都。

 大学二年の夏休み、内気な性格の史織は、奮起して一人旅に挑戦してみた。


 旅の計画も、手配も全て自分一人。

 今までは親にくっついて歩いているだけだったから。準備一つとっても、こんなに緊張して大変なんだと初めて知った。

 それでも心はウキウキとはしゃいだ。


 夜はライトアップが綺麗なんだそうだ。

 そうしてバスの時間に合わせて移動していた中でのこのトラブル……動けない、どうしよう。

 頼りになる家族も友達も無く、一人。やりようもなく棒立ちで固まっていると、知らない街で一人。暗がりに佇む不安に泣きそうになった。


 紅葉の時期なだけあって、人の行き交いは多い。

 けれど、どう声を掛けたらいいのか。見ず知らずの人へ助けを求める声を上げられない。

(靴屋なんて、この時間まだ開いてるのかな? でも場所も分からないし、そもそもどうやってここから移動したらいいんだろう……)


 お気に入りのスニーカーは約四年前に購入したものだ。奮発した上気に入っていて、汚したくなく無かったから。ここぞという時に引っ張りだしたらこの様。見かけは綺麗なのに……中身はすっかり古くなっていたようだ。


 もう諦めて靴下で歩こうと覚悟を決めた瞬間、声が掛かった。


「Excuse me, could you tell me the way?」

 見上げて史織は縮こまる。

(ええっ!?)

 流石は古都京都。国際的な観光地である。

 そこには外国人観光客が二名、史織に向かってガイドブックを開いて何やら訴えている。


 とはいえ史織は英語を話せない。

 固まる史織に何を思ったのか、男性の二人連れの外国人観光客は更に地図を指し示しあれこれ話し掛けてきた。

 観光マップを見るに、史織もチェックしている名所なのは分かるのだが。路線とかバスの系統までいくとちんぷんかんぷんである。しかもこんな状況で、余裕なんて全く無いのに……


「そ、ソーリー。アイキャンとスピーク……」

 身振り手振りで、分からないと訴えるも伝わっているのか、いないのか……体格が良く迫力のある顔立ちに気後れしてしまう。


 史織はばたばたと手を振って分からないアピールを頑張ったが、男性たちはなんかHAHAHAみたいな感じで笑うだけだ。


(どうしようどうしよう)


 逃げたくても靴の底が抜けていて走れない。

 男性たちはたった二人から、まるで山のような威圧感を感じる。周囲の人たちは通りすがりにこちらを一瞥するだけで素通りしていってしまう。


(怖いよう)


 一人旅なんて計画しなければ良かった。

 人に道を尋ねるどころか、お店で商品の場所を聞く事すら躊躇うくらい人見知りなのに……

 内気な性格を少しでも改善したくて思い切った一人旅。こんな形で失敗してしまうなんて思いもしなかった。

 おろおろと一人泣きそうになっていると、再び英語で別の誰かが話しかけてきた。


「May I help you?」

 そう言って誰かが史織の前に立ち、背中で向かいの男性たちかが見えなくなる。それに少しだけホッとしていると、史織を他所に三人が英語で何やら話し出しす。

 何を言っているのか分からないまま、これからどうしようと途方に暮れていると背中を向けていた人物ががこちらを振り向いた。

「……」

「……っあ、の」

 けれど彼はむすりと口元を引き結んだまま、じろりと史織を一瞥する。そこには迷惑の二文字がきっちりと顔に書いてあり、思わず閉口してしまう。


 十代と思われる少年、のようだが、中性的な顔立ちで、一瞬女性に見えてしまった。

 身体付きは細いし、背も百六十センチある史織より少し高いだけだ。

 更木脱色した髪が幼い印象を与え、歳は史織より下に見える。そのせいか威圧感は感じられない。


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