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会社でかくれんぼ  作者: 青山えむ
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第5話

『具合大丈夫?』

 川口からメールが来る。大丈夫だが、一応今週いっぱいは休むと返信をする。


『金曜日、行っていい?』

 アパートに来るということだろうか。不倫関係だ、きっとそうだろう。

 川口は最低な男だと思った。けれども今日、会社内で見かけた川口はやっぱりイケメンだった。私を見つけて笑顔であいさつをした。私というか、美樹に対してだけれど。嬉しかった、私は男の人に優しくされることなんて滅多にない。一週間だけ美樹になれるのだ。その間愉しんでもよいではないか。私は『いいよ』と返信した。


 川口と一緒に過ごせると思ったら少しわくわくしてきた。色恋沙汰とは無縁だった私は今年一番といっていいほど気分が高揚している。

 金曜日に来るということは仕事帰りに来るのだろうか。晩ごはんの準備をしておこう。そのために今から料理の練習をしようと決めた。部屋も掃除をして、美容ケアも気合いを入れよう。


 美樹の美容用品は、かなりの数があった。普段オールインワンで済ませる私はどれをどう使っていいか分からなかった。

 探したらオールインワンの化粧品があった。ふたを開けてみると中味はあまり減っていなかった。買ったばかりなのだろうか。せっかくなので他の高そうな化粧品を使ってみようと思った。


 パックをしている間、テーブルにあったファッション誌を読んでみる。OLや女子大生向けのファッション誌だった。きらきら女子が誌面を飾る。今季流行のファッションやメイク用品が載っている。知らないブランド名ばかりが載っていた。

 付せんを貼っているページを開いてみる。保湿特集だった。夏でも乾燥対策を! と見出しがついていた。保湿のため、お風呂あがりに化粧水を全身につけるとモデルが言っている。冷房が肌に与える影響は思ったよりもひどいと言っている。

 時短にはオールインワン、とおまけのように書いてあった。そうか、オールインワンは時々しか使わないのか。だから減っていないのか。

 私が毎日使っているオールインワンは、美樹にとっては時短のためでしかなかった。仕方なく使っているということか。


 週末、美樹のアパートに現れた川口はご機嫌だった。嬉しさを隠しきれないといった表情をしていた。

 本当は走って来たかったのだろう。けれどもその気持ちを抑えて、あえてゆっくり来たのかもしれない。喜びをかみしめるように。

 こんな風に自分を求めてくれる男が、私にはいたことがなかった。外見が美樹になって今日までは丁寧に自分を手入れしてきた。見たこともない高そうな化粧品をたくさん使った。私は微笑み、自信を持って川口を部屋へ招き入れた。



「かくれんぼ」から一週間後、浅井美樹の死亡が確認された。

 会社に出勤してこないので上司が浅井美樹の携帯にかけるが応答がない。家族に連絡、浅井の親がアパートを確認しに行ったら浅井は死んでいた。死因は毒だったが、それらしいものは見つからなかった。


   〇〇〇


 藤宮桃は焦っていた。浅井美樹の訃報が伝えられ、死因は毒だと噂を聞いたからだ。

 美樹のことは大嫌いだった。私が昆布やわかめを食べるのは健康のためだった。

 乾物だから持ち運びしやすいし、食堂のメニューにあるうどんやそばに手軽に入れて食べられる。

 周りの健康も気遣ってみんなに分けていた。美樹にも分けた。ありがとうと言って食べていた。それなのに美樹は陰で私を馬鹿にしていた。


「昆布の持ち歩きとかまじありえないし」

 嫌なら断ればよかったのに。私と美樹は表面上、仲良しの部類だった。

 一緒にお昼を食べるし仕事でもよく絡む。美樹は私の昆布を断ったら気まずくなると思い、とりあえず食べたのだろう。美樹は体裁を気にする。

 それに美樹が間に合わない仕事を私が引き受けることもある。私とはもめたくないのだと思う。

 美樹は美容と恋愛のことばかり考えている。男性社員に愛想を振りまくことも必須だった。だから仕事が間に合わないのだ。


 美樹の死因について日々噂が流れる。誰がどこで聞いてきたのだろう、「化粧水に毒が入っていた」そんな正確な噂が流れた。誰がどこで情報をもらしているのだろう。

 


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